ボクたちはみんな大人になれなかった

ボクたちはみんな大人になれなかったのレビュー・評価・感想

ボクたちはみんな大人になれなかった
9

20年前に想像した大人になれているだろうか

作家・燃え殻のデビュー作の映画化です。

2020年、46歳。さえない大人になった主人公がFacebookで大好きだった元カノを発見。
彼女の投稿記事を眺め「普通じゃん」と呟く主人公。

時系列が少しずつ過去に遡って行く構成のため、最初は少し戸惑いました。
このシーンの意味はなに?
今のセリフってどういう意味?
自分が何か見逃したのかな?
と疑問ばかりで、ちょっとついていけない映画かも…という思いも頭をよぎりました。
ところが、時代を遡っていくうちに平成の世界観に引き込まれて行きます。
新宿のゲイバー、渋谷のWAVEやタワレコ、原宿のラフォーレ。
景色が当時のままで懐かしさと同時に映像のリアルさに驚きがありました。
連絡手段も、スマホからガラケー、ポケベル、公衆電話と時の流れを感じます。
人間関係も多様で、仕事仲間との絆、婚約者との別れ、ミステリアスな女の子との恋、そして初めて付き合った大好きな彼女。
主人公の人生が紐解かれて伏線を回収するように、先に出てきたシーンやセリフの意味も繋がって行きます。
純情で多感な青年時代があり、様々な経験をしながら社会や現実と折り合いをつけ、大人に…なれなかった主人公。
いつの時代も、なんだか現状に納得できない主人公のもどかしさを感じます。

森山未來の演技力が素晴らしかったです。
46歳の疲れた中年から、働き盛りの30代、そして素朴な20歳の男の子へ、全く違和感なく演じ分けられています。
大好きだった彼女を演じた伊藤沙莉も魅力的でした。
カルチャー通で個性的、普通を嫌った彼女とラブホテルの星空の部屋で過ごした時間は、それは刺激的で20年以上経っても忘れられないだろう…と思えます。
最後の森山未來の全力疾走に切なさを感じ涙が止まりませんでした。

ボクたちはみんな大人になれなかった
9

どうしてこんなに懐かしい気持ちになるのだろう

結論から言うとすごくよかったです。
恐ろしいほどリアルで、もどかしいほど心を揺さぶられる。自分とは1ミリも重なっていないのに、不思議なほど懐かしい気持ちになる。まるで自分も同じ過去をたどったみたいに、ボクの気持ちが痛いほどわかり、思い出すのがひどくつらい。この作品の中の景色を頭に浮かべようとすると、すべてがセピア色に映し出されていく。私以外にもいるはずだ、自分の過去を思う時、その思い出がつらいものであろうとなかろうと、もうその時の自分にはどう頑張っても戻れない、そのこと自体がどうしようもなく悲しくて仕方がないという経験をした人が。
この作品を読んだ時の気持ちは、その時の気持ちととても良く似ていると思う。繰り広げられているのはなんてことないボクの人生。最愛の人、下積み時代、出会った人々、成功、変化、むなしさ、得たもの、失ったもの…そのすべてはもう過去であり、記憶である。それほど戻りたいわけではないのに、戻れないことを改めて突き付けられるとどうしようもなく苦しい。どうしようもないそんな感情にどっぷりと浸れる作品。
読めば私の言いたいことがわかる人がきっといるだろう。そしてもう1つ、私が思ったことは、この作品を読んで思い出すような恋がしたい。ふと思い出したときに、ひどく心をえぐる、最悪の恋だ。