キセキ -あの日のソビト-

キセキ -あの日のソビト-

『キセキーあの日のソビトー』とは、大ヒット曲を数々生み出したGReeeeNの結成と「キセキ」という楽曲の誕生秘話を描いた映画である。
音楽に挫折した兄のジンは、歯科医師を目指す弟のヒデの音楽の才能に気づき、ヒデの音楽活動を支えることにした。
父親である誠一のような医者を目指していたヒデは、歯科大学の仲間と共に顔を出さない音楽グループGReeeeNを結成する。
そんな2人の主人公と音楽を認めない誠一との葛藤を実話を元にしたストーリー。

キセキ -あの日のソビト-のレビュー・評価・感想

キセキ -あの日のソビト-
8

兄弟の葛藤と父親との関係

この映画は人気音楽アーティストである「GReeeeN」の結成と、「キセキ」という楽曲の誕生までの実話がもとになった作品である。親と息子の関係性、兄弟の絆、やりたいことや自分の役割について描いた物語になっているので、GReeeeNや音楽を知らない、あるいは興味がない人でも考えさせられる作品でもある。

GReeeeNの「キセキ」の誕生までには、医者である父親と2人の息子の葛藤があった。医者以外は仕事と認めない頑固な父親を演じるのが小林薫さん。音楽を志し、挫折したことで何かに気づけた兄を演じるのが松坂桃李さん。父親の仕事を尊敬し、医者の勉強を続ける中で音楽に惹かれていく弟を演じる菅田将暉さん。

弟のHIDEは、医学部大学の合格とその後の医者への道のりに向けて、日々勉強をする毎日。そんな中、弟は医者になる難しさに直面し、趣味の音楽に惹かれる思いと交錯する。
兄は自分がボーカルとして音楽に挫折し、弟の音楽の才能に気づき、自分の役割について考え始める。

その2人の兄弟の葛藤がGReeeeNを生み、その後の「キセキ」という楽曲が世の中と父親と兄弟にどのような影響を与えるのか。気になる方は是非、本編をご覧下さい。

キセキ -あの日のソビト-
10

スルーするには勿体ない

GReeeeNプロデューサーJIN(松坂桃李が演じた兄のほう)が本作の音楽プロデューサーを務めたそうだが、多分歌や演奏に限ってのみの協力だったのだろう。楽器やバンドの経験者が見ると、リアリティーに欠ける雑な描写がちらほら。壁にかけたまま長期間放置していたアコースティックギターを久しぶりに手にとったはずなのに、ジャラーンとコードを鳴らすとチューニングが完璧に合っているとか。そのレベルの細かな部分なのだが、弾く前に調弦するカットをちょっと入れれば済むのに、それをやらない。脚本や演出に口を出す音楽家がいなかったのだろう。
まあでも、コーラスグループの楽しさ、ハーモニーの美しさも上出来で、GReeeeNのファンや俳優目当ての人はもちろん、それ以外の音楽映画好きが観てもそれなりに楽しめるのでは。
何より、歯科医師と人気バンドの兼業という、奇跡的な実話が持つパワーが、映画の魅力になっている。
医者は人の命を助けるが、音楽にそんな力はない!そう冷徹に言い放つ父親に反抗して、ロックミュージシャンとしてプロを目指すも、結局モノにならず鬱積した日々を送る長男が、父の希望通り医者の道を進むかに見えて、実は自分の数倍も音楽の才能に恵まれた弟に、一度は捨てた夢を託そうとする。神様はかくも不公平かと恨みたくなるが、人にはそれぞれ受け持つ仕事と、そこからまた、新たな喜びが浮かび上がってくる実話を基にした物語の、何と自然で普遍的なことか!?今更言われても素直にハイとは言えない、両親へのリスペクトや、たとえ歩む道は別っても変わらぬ友への友情、そして、音楽の可能性をしっかり描き込んだ点も含めて、スルーするには勿体ない青春映画の佳作としてお薦めしたい。平凡な物語をちゃんと形にして提示することのしんどさは、もしかして昨今の多くの日本映画が忘れている要素かも知れないと思うし。