スルーするには勿体ない
GReeeeNプロデューサーJIN(松坂桃李が演じた兄のほう)が本作の音楽プロデューサーを務めたそうだが、多分歌や演奏に限ってのみの協力だったのだろう。楽器やバンドの経験者が見ると、リアリティーに欠ける雑な描写がちらほら。壁にかけたまま長期間放置していたアコースティックギターを久しぶりに手にとったはずなのに、ジャラーンとコードを鳴らすとチューニングが完璧に合っているとか。そのレベルの細かな部分なのだが、弾く前に調弦するカットをちょっと入れれば済むのに、それをやらない。脚本や演出に口を出す音楽家がいなかったのだろう。
まあでも、コーラスグループの楽しさ、ハーモニーの美しさも上出来で、GReeeeNのファンや俳優目当ての人はもちろん、それ以外の音楽映画好きが観てもそれなりに楽しめるのでは。
何より、歯科医師と人気バンドの兼業という、奇跡的な実話が持つパワーが、映画の魅力になっている。
医者は人の命を助けるが、音楽にそんな力はない!そう冷徹に言い放つ父親に反抗して、ロックミュージシャンとしてプロを目指すも、結局モノにならず鬱積した日々を送る長男が、父の希望通り医者の道を進むかに見えて、実は自分の数倍も音楽の才能に恵まれた弟に、一度は捨てた夢を託そうとする。神様はかくも不公平かと恨みたくなるが、人にはそれぞれ受け持つ仕事と、そこからまた、新たな喜びが浮かび上がってくる実話を基にした物語の、何と自然で普遍的なことか!?今更言われても素直にハイとは言えない、両親へのリスペクトや、たとえ歩む道は別っても変わらぬ友への友情、そして、音楽の可能性をしっかり描き込んだ点も含めて、スルーするには勿体ない青春映画の佳作としてお薦めしたい。平凡な物語をちゃんと形にして提示することのしんどさは、もしかして昨今の多くの日本映画が忘れている要素かも知れないと思うし。