さよなら私のクラマー

さよなら私のクラマー

『さよなら私のクラマー』とは2016年より新川直司が『月刊少年マガジン』で連載していた女子サッカー漫画である。2016年6月から2021年1月まで連載していた。中学時代、環境に恵まれなかったサッカー少女たちがサッカー弱小高校蕨青南高校で出会う。環境にとらわれず、直向きにサッカーに情熱を注ぐ少女たちの物語である。作者・新川真司の詩的な言葉と感情に訴えてくる演出によって、多くの読者の支持を受ける。累計発行部数は約500万部。海外版も出ている。
アニメ化・映画化されている。

さよなら私のクラマーのレビュー・評価・感想

さよなら私のクラマー
10

サッカーフリークだけでなく、何かに自信を無くした人にも読んでほしい名作漫画『さよなら私のクラマー』

サッカー好きが好む漫画作品として、これまで
・『キャプテン翼』
・『シュート』
・『ホイッスル』
などたくさんのサッカー漫画が登場してきました。

そんなサッカー漫画の一つとして、女子サッカーをテーマに描いた新川直司先生の漫画作品が『さよなら私のクラマー』。
この漫画作品は、『さよならフットボール』をベースに女子サッカーという新たな舞台を描いた漫画作品です。

元日本代表・澤穂希さんも、かつては男子に混ざってサッカーをしていたそうです。女子サッカーが根付いていなかった時代を経て、これからの未来へ向けてという意味も含めて女子サッカーをモチーフとして描かれています。

主人公の恩田希も澤穂希さん同様、過去に男子と混ざってサッカーをしていた少ないサッカー少女の一人でした。
そんな彼女が、恩師に『男子に混ざってサッカーしてもフィジカルで女子は勝てないしもったいない。それなら、女子サッカーを牽引しながら楽しんでこい!』と背中を押され、女子サッカー部に入部します。

さよなら私のクラマーでは、恩田希が蕨青南高校に入学する直前から描かれています。中学時代からの尊敬する先輩・桐島千花や同じ高校に通うこととなる周防すみれなど、とにかく個性あふれる面々と出会い、弱小女子サッカー部蕨青南高校(通称・ワラビーズ)をサッカー強豪校に押し上げていく姿は実に見ていて面白いです。

最終回で憧れの先輩・桐島千花が所属する強豪校『浦和邦成』との対決が実現するシーンは感動モノでした。

この作品はサッカー好きにはもちろんのことですが、サッカーに縁がなくとも自信を見失い自分は駄目とネガティブに考えている人たちに、なにかに打ち込むことで実力を高め自信を取り戻させてくれる作品として非常におすすめです。

特に元気のない人に読んでほしい作品なので、気になる方はぜひ手にとって一度読んでみてくださいね。

さよなら私のクラマー
9

ほとばしるような情熱が胸に響く。王道の女子サッカー物語

「さよなら私のクラマー」は、新川直司原作による日本のスポーツ漫画です。
女子サッカー部に所属する高校生たちが、日々鍛錬を重ね多くの強豪校に立ち向かっていく、その過程を非常に丁寧に、かつ情熱的に描いた作品です。

物語の舞台となるのは、蕨青南高校という埼玉県の公立校。
万年予選敗退を繰り返していた女子サッカー部「ワラビーズ」に、様々な事情を抱えた一年生たちが入部するところからストーリーが始まります。

中心となるメンバーは、周防すみれ、曽志崎緑、恩田希の3名で、サッカー技術はいずれも一級品。
同時に、いずれもが性格的に一癖も二癖もあって、それがチーム全体の強さに大きく影響を及ぼしていきます。
他人とコミュニケーションを取るのが苦手な者、天才的サッカーセンスを持ちながら、肝心なところでポカをかます者、さらには、その天才に憧れるがあまり空回りを繰り返す者など、他の部員たちも含め魅力に溢れたキャラクターが次々に登場します。

それは、対戦相手となるチームにおいても同様です。ライバルである彼女たちがサッカーを続けてきた中で、どのような挫折と栄光を味わってきたのかがきちんと描写されています。
それゆえ、読んでいるうちに相手チームのほうを応援してしまう人もいるかもしれません。

ワラビーズ面々の心情や行動は、その都度チームに悲喜こもごもの結果をもたらします。
しかし彼女たちが終始一貫して持っているのは、「強くなりたい。負けたくない」という王道のスポーツ精神。
その揺るぎないスピリットは読者の感情を揺さぶるに十分で、漫画を読んでいるだけなのにいつしかその手に汗を握らせます。

熱いストーリーながら、女子部員たちの軽妙な掛け合いが多くの笑いを誘うのも魅力のひとつ。
サッカー、ひいてはスポーツ漫画の傑作として読み継がれていく作品ではないでしょうか。

さよなら私のクラマー
10

女子サッカー青春譚&現代サッカー講座&おじさんサッカーファンホイホイ

本作品は講談社から発行の月刊少年マガジンに連載中の女子高校サッカーを舞台とした作品で、2016年6月から連載開始、2019年3月24日時点で単行本が8巻まで刊行されています。
作者は新川直司先生で、天才少年ピアニストの音楽への復帰と同い年のバイオリニストとのほろ苦い恋愛を主題にした作品で、アニメ化もされている「四月は君の嘘」の作者さんでもあります。

埼玉県を舞台にして中学生から高校生に進学した主人公たちが、弱小チームを強豪へと変身させていく、という王道スポーツマンガを地で行く展開なのですが、その舞台が高校女子サッカー、主人公は女子高生という珍しい設定となっております。

第一の魅力となるのが彼女たちのサッカー、ひいては勝つことへの情熱です。
主人公たちもさることながら、対戦する相手選手にもサッカーをプレイする、または熱中するきっかけとなったバックボーンがていねいに用意されており、読者はある種「どちらにも負けてほしくない」という感情移入をもって作品を読むことができます。その彼女たちのひたむきさにサッカー(スポーツ)経験者は大いに共感し、未経験者でも(作中の登場人物の一人がそうであるように)「サッカーをやってみたい」という気持ちにさせてくれます。

その彼女たちの気持ち、プレーが空虚に描かれないよう、試合中の描写もまたていねいに作られています。
その中で二つ目の魅力が現代サッカーの教科書となる、戦術講座とも言うべき試合運びの妙です。守備ブロックの構成やポゼッションの基本、「カテナチオ」など身体だけでなく頭もフル回転させながら試合に臨む姿が、情熱にロジックを加えて試合の面白さを演出してくれます。
ただ、戦術による戦況の有利不利の描写は間違いなくあるのですが、実際のサッカーと同じように、ジャンケンのようなパーに対してチョキを出せば勝てる、という単純な構図とはなっておらず
その有利不利が結果にすぐには反映されない、という点も演出の妙の一つと思います。

これだけでも十分面白いのですが、トドメに心を射抜いてくれるのが一つ一つのプレイ。
みんな上手いなあと感心するばかりですが、タイトルにある「おじさんサッカーファン」をホイホイしてくれるのが、名うての名手が降りてきたかのようなプレーの数々。詳細はぜひ中身をご覧いただきたいのですが、一つだけ、作中で最強チームの名を冠する久乃木学園高校の天才プレイヤー、井藤春名ちゃんが繰り出すフリーキックはあのFK職人そっくりです。
こういうところに作者さんのサッカー愛が滲み出ているところが、よりいっそうこの作品の魅力となっているかと思います。

もちろん上に挙げた以外にも面白さはいたるところにありますので、どうぞお読みいただき、この世界に触れてくださればと思います。