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血が苦手な方はいやかも。
園子温監督の「冷たい熱帯魚」は日本で現実にあった事件をモチーフにしてできた作品です。
「愛犬家殺人事件」と聞けば若い人は知らないかもしれませんが、この事件を知っている年代なら「こんなことがあったなんて!」と人間の欲望の闇に驚愕します。魚を高く売ることで儲けようとする人や誰よりも多くお金が欲しい!といった欲の一線を超えてしまった人が、犯人の毒牙にかかってしまいます。この犯人役はでんでんさんが演じていますが、笑っているのに目の奥は深淵のようで、見ていると心に恐怖が沸き起こります。
人を解体するシーンがありますので、血が苦手な方は目隠ししてください。一番難しい解体場所まで、映画を観ている自分がその場にいるような気持ちになります。園子温監督の作品は必ず血生臭いものばかりで、手術室勤務していた自分ですら血の臭いがしてきそうな錯覚に陥りました。でんでんさんは笑いながら人を解体してしまいます。「今調理の仕込み中だから待っててくれ?」というセリフが本当に事件にあったのなら犯人は鬼か悪魔のようです。金銭欲や愛欲を従わせる為に巧みに使う犯人は、人の欲の深淵に近いのかもしれません。ニーチェの「怪物を知ろうと思ったら、自らが怪物にならなければ理解できないだろう」という言葉を思い出しました。
また園子温監督のこだわりなのか、映される教会やマリア像がまるで【あなたは違うといえる?】と問われているように感じます。実は誰もがもちあわせている闇を出すか、出さないか?そう問われている映画かもしれません。
実際の事件にたまたま加担することになった共犯者が手記を書いていますので、映画を観た後に読むことをお勧めします。ホラーやゾンビ、幽霊より怖いのは人間なのです。