スマイルの孤独の理由について。
初めて読んだ松本大洋の作品が『ピンポン』でした。絵のタッチで漫画を読むことが多いんですが、この絵を見た時はまるで木版画のようで衝撃的でした。白黒のコントラストがあまりにも強くて、かなり好き嫌いが別れると思います。けど、松本大洋の漫画は一度ハマるとやめられないくらいにクセになりますね。この作品と『鉄コン筋クリート』が代表作と言えるんですが、描いてるテーマはあまりに壮大で哲学的なのに、登場人物の行動や台詞はなぜか笑ってしまうほどにシュールです。生まれながらにしてヒーローである天才肌の星野(ペコ)と星野に憧れ続けるあまりにストイックな秀才、月本(スマイル)の二人が繰り広げる卓球漫画。卓球はあくまで二人の凄さを表現する上での物差しに過ぎないと思います。幼い頃、いじめられていた月本を一瞬で救った正義の味方である星野。そして、全く笑わなかった月本にスマイルというあだ名をつけた星野。それが物語のルーツであり、すべてなのです。練習をしないで駄菓子ばかりを食べているペコを横目にスマイルは卓球のポテンシャルの高さをどんどん発揮していきます。スマイルは実力でペコを完全に越えてしまう。それはスマイルにとって最も寂しい、認めたくない現実でした。ペコが再び自分の目の前にヒーローとして現れるのをただ、ただ待つスマイル。別に勝ちたくて卓球をやっているわけじゃない。強敵に勝てば勝つほど、スマイルの孤独感は増していく。最後にペコはスマイルの前に決勝戦で対戦相手として現れます。かつて自分を救ったヒーローとして。