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壁の外を知らずに過ごした少年と、7年以上も監禁されていた母親の新しい生活。
2016年公開時に映画館で見逃してしまい、ずっと気になっていたがついに先日鑑賞した。
オーストリアで実際に起こったフリッツル事件(オーストリアに住む男性が24年間実娘を監禁し出産させていた)がモデルだと聞き、陰鬱な映画を想像していたが、本作はどちらかというとハートフルな映画。息子のジャックが成長していく過程に心が温まる。
前半の監禁部屋からの脱出劇は息を潜めてしまうほどの緊迫感があるが、後半に描かれる親子の新しい生活は、不器用ながらも支え合う二人の愛が感じられる。
5年間以上小さな部屋に母と二人暮らしだったジャックにとって、壁の外は宇宙空間に等しかった。その彼が初めて触れ合う「他人」と関係を築き、母親の知らぬ間に新しい環境に適応していく姿は子供の秘める強さを私たちに伝えてくれる。
映画の終盤で、二人がかつて閉じ込められていた小屋を訪れるシーンが特に印象的であった。過去を断ち切れずにいる母親とは対照的に、小屋の中にある家具の一つ一つに「Good bye」と声をかける息子のジャック。小さな子供なりに過去を清算し、前を向いて進もうとしている姿が感動的だった。
いつも何気なく過ごしている生活を振り返ってその尊さに気づかされる映画だと思う。