変幻自在のカルトスターにしてスーパースター
60年代末から亡くなる2016年まで、約50年にわたり活躍した、イギリスが誇るロックスター。
全盛期と言われる70年代の作品が注目されがちですが、後期の作品にも素晴らしいものがたくさんあります。
特に2013年発表の『ザ・ネクスト・デイ』と晩年の2016年に発表した『ブラックスター(★)』は、70年代の傑作にも匹敵するくらいの出来ではないかと思います。
『ザ・ネクスト・デイ』は全体的に快活でストレートなロックアルバムという印象ですが、歌詞をよく読むとボウイの思想の深さが垣間見えます(ラストを飾る『Heat』という曲には、なんと三島由紀夫の小説『豊饒の海』の一場面を連想させる歌詞が登場します)。
『ブラックスター』は、現代ジャズの要素を取り入れた非常に実験的なアルバムです。
それでいてキャッチーさや美しいメロディも随所にあり、決してリスナーを置いてきぼりにはしません。
死の直前まで音楽のスタイルを変え続けるあたり、さすがデヴィッド・ボウイ!という感じです。
80年代(特に83年に『レッツダンス』を発表して以降)のボウイは、商業主義に走り過ぎ、芸術面では低迷したとしばしば言われます。
確かにそういう面もなくはないのですが、当時の作品を改めて聴き返してみると、楽曲単位のクオリティは決して落ちていなかったのでは、と思います。
特に『ラヴィング・ジ・エイリアン』や『アブソリュート・ビギナーズ』は鳥肌モノです。
とはいっても、やはり70年代の作品も最高です。
ロック史の名盤でもある『ジギー・スターダスト』(72年)はもちろん、個人的には『ステイション・トゥ・ステイション』(76年)も最高にファンキーで大好きです。
これほど音楽性を変え、ときにはキャラクターも変えながら、第一線で活躍し続けたミュージシャンはなかなかいないのではないでしょうか。
カルト的な人気を持っていた70年代から、大衆的な人気を獲得していく80年代以降へ、という過程を追うのも楽しいと思います。