実写映画化された「累 かさね」の原作漫画
口紅を塗ってキスすると顔が入れ替わるというオカルトチックなテーマながら、人間の弱さや愛おしさを丁寧に表現した作品です。主人公のかさねは、美しい大女優の母の子に生まれながら醜い顔を持ち、虐められながら育ちます。しかし、女優としての才能は他の追随を許さないほどでした。偶然母の形見の口紅の力を知り、美しい容姿を手に入れた彼女は後に女優としての人生をスタートさせます。この話の肝となるのは、口紅の効力は一定時間で消えてしまう事、相手も殺しても同じだという事です。顔を交換する相手と利害関係が一致するか、相手を監禁するしか顔を保つ方法がありません。美しい顔を手に入れたかさねは別人のように明るく自信満々に振る舞いますが、醜い顔のときはマスクをして背中を丸めて隠れるように生きています。すれ違う人の嫌悪の眼差し、逆に美しい時の羨望の眼差しに、人間の身勝手さを感じます。美しさと才能が揃ってこその、女優かさねですが、最終巻ではなんと元の醜い姿のまま舞台に立つ決意をします。その舞台は母の物語をそのまま再現したもの。「かさね」という名の通り母の人生を踏襲して生きてきたかさねが、最後に傷つくことを分かっていながら自分らしい道を歩もうとするところに鳥肌がたちます。たくさんの人の人生を狂わせてきたかさねは、ハッピーエンドとは言い難い終わりを迎えますが、最後の1ページに救いがあります。弱いからこそ愛着の湧く主人公でした。