細田守版『時をかける少女』における原作との差異
2006年に公開された細田守監督の映画『時をかける少女』は、筒井康隆の同名原作から設定を変えている点が多々ある。
原作の刊行は1967年であり、2006年に現代劇として映画を製作するには設定に変化が加わるのは当然のことでもある。
この記事では、原作との相違点を具体的にあげていくことで、映画化する際にどのような狙いがあったのかを考えたい。
◯未来から来た少年のキャラクター
細田守版『時をかける少女』では主人公の紺野真琴、男友達の間宮千昭、津田功介の3名が主要な登場人物となっている。原作ではそれぞれの名前が芳山和子、深町一夫、浅倉吾朗であった。1983年の大林宣彦監督版『時をかける少女』では原作通りの人名であったが、原作から約40年後という細田守版の時代設定に合わせれば人名を変える方が自然と言える。
原作における深町一夫、細田守版における間宮千昭は、未来から来た少年という設定である。
深町は教育環境の発達した2600年代から自らの実験で開発した薬でタイムリープして来た設定のため、学力は非常に高く静かなキャラクターである。対して千昭は未来に存在するアイテムの力でタイムリープして来た設定で、学力の高さは強調されず、やんちゃなキャラクターとして描かれている。
『時をかける少女』における未来から来た少年のストーリー上の重要な役割は、主人公の少女に恋心を抱かせ、少年が未来に帰ることで少女の心に葛藤を生む点にある。原作では寡黙で知的な少年を、細田守版では活動的でやんちゃな少年を恋愛対象として描いていることから、約40年の間で生まれた「少女の恋愛対象になりやすい少年像」の変化を感じ取れる。
◯タイムリープする回数の多さ
タイトルにもなっている「時をかける」能力を作中ではタイムリープと呼んでいる。
原作ではタイムリープが片手で数えるほどしか行われないが、細田守版では20回以上描かれている。
原作での主人公・和子はタイムリープという特殊な能力を持ってしまった自分を嫌がり、人の生死に関わるような重要な局面で意を決してタイムリープを使用していた。
細田守版の真琴は、タイムリープを自身のちょっとした都合(テストの点数を上げたり、カラオケを何回も楽しむなど)のために乱用する傾向があった。
細田守版はタイムリープをくり返し描くことで、ささいな行動が運命を変えていく様を観客に明快に伝えていた。
・まとめ
今回取り上げたのは「未来から来た少年のキャラクター」「タイムリープする回数の多さ」の2点であった。
もちろん、それ以外にも原作との差異は多くある。
原作では主人公の和子と未来に帰る深町との恋愛感情が主なテーマとして描かれていた。
細田守版では真琴が未来に帰る千昭と会えなくなることや、タイムリープで運命を都合よく変えられなくなるという事実を受け入れるようになる成長がテーマとして描かれていた。
原作からの差異は、主として真琴の成長を効果的に描くために施されたものと言えるだろう。