圧倒的「才能」の暴力
出版不況に苦しむ文芸業界。そんな編集部にある日、一作の新人賞応募作が届きました。
その作品は応募要項を全く満たしておらず、作者の名前以外は連絡先さえわからないという始末。見かねた編集部は一度はボツにしたが、その作品は紛れもない「傑作」だった――。
これはそんな作品「御伽の庭」と、作者である主人公・鮎喰響を中心に繰り広げられる現代ヒューマンドラマです。
本作品の魅力的だと思う点は、まず何といっても主人公だと思います。
高校生ながら他を寄せ付けない圧倒的な文才と感性という才能を持つ主人公。破天荒で歯に衣着せない物言いや思ったことをすぐに実行する行動力から、周りとの衝突も絶えません。そんな主人公が作品を生み出し、小説家としてどのように成長していくのか、そして主人公が抱いた夢とは――。という内容を主人公の高校三年間に密着するように展開されていきます。
そんな主人公を横で支える編集者・花井ふみもある意味では主人公と言えるかもしれません。「文芸の時代を創る」と志した彼女に注目して読むと、また違った楽しみ方ができると思います。
純文学という大衆にあまり馴染みのないジャンルの業界や編集部というものがどのような存在なのかということがリアルに感じられつつ、主人公の才能によってどんどんと展開されていくストーリーがとても秀逸で面白い作品でした。