九龍ジェネリックロマンス

九龍ジェネリックロマンス

『九龍ジェネリックロマンス』とは、眉月じゅんが雑誌『週刊ヤングジャンプ』(集英社)に2019年49号より連載中のSFラブストーリーである。物語の舞台は、近未来の香港に存在する「第二九龍寨城」。その上空には建設中のコロニー「ジェネリック地球(テラ)」が浮かんでいる。不動産会社に勤務する過去の記憶を持たない女性・鯨井令子が様々な秘密に翻弄されていく中、先輩の工藤発との恋愛模様を描く。恋愛漫画でありながら、SF要素やミステリー要素が混じっているのが本作の魅力となっている。

seiryuuruki8のレビュー・評価・感想

九龍ジェネリックロマンス
8

はじめて見るのに“懐かしい”

鯨井Bはすでに死んでいるのかもしれない——。
かつて存在し、今はないはずの九龍城砦。ノスタルジーな九龍で暮らすのが不動産の会社員の鯨井玲子。同じ会社の先輩に恋心を抱く彼女には彼女自身も知らなかった秘密があった。それは、今の鯨井玲子が存在しているのはここ最近で、かつてもう一人の自分(=鯨井B)が存在していたということだ。その証拠に鯨井には過去の記憶ではない。“わたし”は一体誰なのか?
SF的なストーリー展開と共にこの作品を彩るのは、初めて見るのに“懐かしい”と思わせる世界観だ。80年代を彷彿とさせるポップでコミカルな絵で、スイカ、金魚、ひまわりなどの夏休みを思い出させるようなアイテムがたくさん出てくる。中でも、冷蔵庫に一日置いてカルキを飛ばした水を飲むなんて、やったことないけれどなんとなく“懐かしい”気がする。
シーンのコマ割りにも先輩との二人の距離感が描かれていたりして、意味があるからこそグッと引き込まれる。
そして、ウォン・カーウァイの香港映画のように雑多でムワンと熱気立つような湿度高めの九龍が、漫画に描かれていない部分まで目の前に広がっていくような気がする。そのぐらい包み込まれるような臨場感のある作品だ。
ほとんどの読者はきっとそんな香港を知らない、けれど不思議なことに「懐かしい」と感じるはずだ。だから読者もまた鯨井と一緒で、知らないのに懐かしいこの世界から抜け出せなくなるのかもしれない。