可愛さと厳しさと
『3月のライオン』は羽海野チカ原作のアニメ作品で、現在は第2期まで放映されている。
「漫画のほんわりとした絵が好き」という原作ファンも納得できる、可愛らしい柔らかな絵と実力派声優陣の気迫のこもった演技が楽しめる作品だ。
主人公の桐山零は15歳でプロ棋士となった高校生だ。零は両親を亡くしており、引き取られたプロ棋士の家では二人いる実の子よりも将棋の才能があったため、妬まれてしまう。その家を出て一人暮らしを始めた零はある日、明るく可愛い三姉妹と出会う。
棋士の話なので将棋の対戦シーンも出てくるのだが、将棋の知識がなくても楽しめるように工夫されている。その上、将棋の監修をプロ棋士の方が行っているので、将棋を指す人にも見ごたえ十分だろう。将棋を知っている人も知らない人も、これから知りたい人にもぜひお勧めしたい。
そして可愛らしい登場人物たちがそれぞれ抱える苦悩、プロ棋士という孤独な戦いを続ける者の心情を見事に描き切っている。厳しい世界だからこそ、この作品が魅せる“人の優しさ”がじんわり沁みる。
白黒はっきりと悪者を描かないのも魅力の一つだ。『3月のライオン』には、育て親であるプロ棋士の娘やその娘の不倫相手の棋士などがいるのだが、回を追うごとに彼らには彼らの事情があったり、一体どんな人間なのか掴みきれないように良い面も悪い面も描かれている。特に大人の視聴者には深い印象を与える登場人物だと思うので、ぜひダークな登場人物にも注目してほしい。