蛍火の杜へ

蛍火の杜へ

『蛍火の杜へ』(ほたるびのもりへ)とは、緑川ゆきによる漫画作品、および同作を表題とした短編集である。白泉社の『LaLa DX』2002年7月号に掲載された読み切り作品であり、2011年にはアニメ映画化も行われた。妖怪が住むという「山神の森」を舞台に、人の姿をした不思議な少年・ギンと、人間の少女・竹川蛍(たけがわ ほたる)の切なくも温かい交流を叙情的に描いたファンタジー作品である。
6歳の夏、山神の森で迷子になった蛍は、狐の面をつけた少年・ギンに出会う。ギンは元は人の子であったが、森に捨てられたところを山神の妖術によって生かされており、人間に触れられると消えてしまうという宿命を背負っていた。それ以来、蛍は毎年夏になるたびに森を訪れ、ギンと過ごす時間を重ねていく。年を経て蛍の身体が成長し、その目線がギンに近づくにつれ、二人は互いに「触れたい」と願い、夏を待ちきれないほど深く慕い合うようになる。物語は、高校生になった蛍がギンと妖怪の夏祭りに出かけた際、予期せぬ出来事から最初で最後の抱擁を交わすまでの、短くも永遠のような時間を描き出している。
短編集には表題作のほか、『花唄流るる』『くるくる落ち葉』『ひび、深く』などの読み切りが収録されており、愛蔵版では特別編の描き下ろしも加えられている。

tata123430のレビュー・評価・感想

蛍火の杜へ
7

子供のころの思い出のように儚い物語

主人公の蛍は幼少期に、妖怪の棲む山神の森で仮面をつけた青年ギンと出会う。その青年は森に棲んでおり、人間に触れられると消滅してしまうという。人ではない青年と人間の少女が織りなす、切なくて感動するアニメ映画。

夏の間だけ会える2人は、ふとした事がきっかけで出会うが、毎年夏が恋しくなるほど心を通わせていく。毎年毎年成長していく蛍と、外見も何も変わらないギン。ラストで、意図せず人間に触れてしまったギンが、消えゆく体に驚きながらも、「やっとお前に触れられる」と悲しむでもなく抱擁を求めるところが、蛍に対する想いの強さを感じた。「好き」や「愛している」という好意の言葉のほかに、こんなに胸を締め付ける表現があるとは思わなかった。「綺麗なものは儚く、壊れやすい」とはこのことなのだと実感した。

45分ほどの短編映画だが、最初から最後までストーリーや映像が繊細で美しい。年を重ねるごとに少しずつ心の距離が縮まってゆっくりと恋心が育まれていくのに、「お互いが相容れない存在で、犯せない領域がある」ということを思い知る葛藤の描写には、徐々に胸が苦しくなっていった。また、長いセリフがなく、会話が淡々を進んでいく様子が、「子供のころの思い出」のようで鑑賞しやすかった。

切なくて胸が苦しくなるけれど、悲しいだけでは終わらず、美しい映画だった。