蛍火の杜へ

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蛍火の杜へ
7

子供のころの思い出のように儚い物語

主人公の蛍は幼少期に、妖怪の棲む山神の森で仮面をつけた青年ギンと出会う。その青年は森に棲んでおり、人間に触れられると消滅してしまうという。人ではない青年と人間の少女が織りなす、切なくて感動するアニメ映画。

夏の間だけ会える2人は、ふとした事がきっかけで出会うが、毎年夏が恋しくなるほど心を通わせていく。毎年毎年成長していく蛍と、外見も何も変わらないギン。ラストで、意図せず人間に触れてしまったギンが、消えゆく体に驚きながらも、「やっとお前に触れられる」と悲しむでもなく抱擁を求めるところが、蛍に対する想いの強さを感じた。「好き」や「愛している」という好意の言葉のほかに、こんなに胸を締め付ける表現があるとは思わなかった。「綺麗なものは儚く、壊れやすい」とはこのことなのだと実感した。

45分ほどの短編映画だが、最初から最後までストーリーや映像が繊細で美しい。年を重ねるごとに少しずつ心の距離が縮まってゆっくりと恋心が育まれていくのに、「お互いが相容れない存在で、犯せない領域がある」ということを思い知る葛藤の描写には、徐々に胸が苦しくなっていった。また、長いセリフがなく、会話が淡々を進んでいく様子が、「子供のころの思い出」のようで鑑賞しやすかった。

切なくて胸が苦しくなるけれど、悲しいだけでは終わらず、美しい映画だった。