禅と骨 Zen and Bones

tw-12456054610107064338のレビュー・評価・感想

レビューを書く
禅と骨 Zen and Bones
9

童謡「赤い靴」に我が身を重ねる反骨ハーフ禅僧の心の旅

戦争とさすらいの血に翻弄された、日米ハーフ天龍寺禅僧ヘンリ・ミトワの晩年に密着した作品。横浜生まれのミトワ青年は、米国へ帰国した父を探しに横浜港から氷川丸に乗る。渡米後太平洋戦争勃発、日系人強制収容所に抑留。戦後米国に留まり、日本に帰国したのは21年後。禅に傾倒し京都妙心寺へ身を寄せ得度、裏千家に出入りし陶芸や生け花に手を染める。時は経ち、京都に変わり者の僧侶がいると聞きつけた中村監督のカメラは、禅の道というよりgoing my wayな気分屋爺さんの日々をつぶさにとらえる。多感な時期に言葉もよく分からぬ日本に連れてこられた事が、ある意味未だトラウマとなっている次女との激しいいさかい、居合わせた長男長女も含め、日本語と英語のちゃんぽんなやり取りとなってゆくカオス的シーンが、観ているこちらの心にグサリと突き刺さる。
若き頃の再現ドラマ内でミトワ青年を演じるウエンツ瑛士の熱演も光る。奇しくも同様にドイツ系アメリカ人の父親を持つウエンツだが、長兄を演じたチャド・マレーンが仰天したほど当時は英語が話せなかったらしい。
「刑事さん、私には分かりません。私は日本で生まれた日本人です。」
バラエティ番組の時とも違う、素の状態の自分を出せたという。他には元芸者の姐御的な母親として余貴美子、そしてエンドロール時には横山剣歌う「骨まで愛して」となっている。
ヒトは何処からやって来て何処へ流れてゆくのだろう。そんな事を改めて考えさせられる、Yokohamaが通奏低音のようにゆるゆると根底に流れている作品。