言葉で悟った直後に行動で間違う。
シンジを奮い立たせるために、ミサトは彼を叱咤し、説得し、激励します。本作屈指の名シーンです。その直後にキスをします。シンジはミサトに対して、母や姉のような存在であることは求めても、性的な存在であることは求めていません。ミサトはそれを最後の最後まで理解できていないままですが、シンジが前に進む可能性が少しでもあるならと、間違った行動をしてしまいます。どこまでも擦れ違い傷つけあう人間関係を描いてきた本作ならではの悲しくも醜悪なシーンと取ることもできますが、本来他人であるミサトがシンジと本物の家族になろうと必死に足掻く姿とも捉えることができます。
そしてラストシーンでは、“自分を他人に認められたければ、自分も他人を認めなければならない”という人という生き物の本質を悟ったシンジが「他者の肯定」に目覚め、人類全てを融合させることで他人という異物を排除しようとした人類保管計画から決別します。しかしその後、シンジは隣に倒れていたアスカの首を締め始めるのです。「他人という異物と共にあり続ける」ことを選びながら、その異物から与えられる痛みに耐えられずにそれを排除しようという、ある種本末転倒な展開です。人生の選択を間違えること、進んでは後悔する事の繰り返しという流れに囚われ続けることを受け入れるという点では、中途半端なまま終わったTV版よりも一歩先の話になっていると思います。それは常に相手から否定的な目線を浴びる可能性が続く事を意味しています。しかし、それに対して、カヲルの「その可能性(他人という異物によって与えられる痛み)こそが、自分と異なる何かがこの世に存在するという希望そのものなんだ」という言葉がとても心に残ります。
直後、アスカが覚醒するシーンのカタルシスだけでも見る価値は大いにあります。登場人物の誰もが自分の理屈でしか行動していない今作において、シンジが初めて生々しい他人の感情をぶつけられる場面になるので、リアリティのギャップがえげつないです。