NYの路上の奇跡、ビバ・ミリキタニパワー!
NYのソーホーで路上生活をしていた、とある日系人画家の生活と秘められた過去や思いにせまる作品。 ジミー・ツトム・ミリキタニ(三力谷)、米国サクラメント生まれ広島育ち。2001年の初頭にリンダ監督が猫を描く彼に話しかけたのが事の発端。あの911の直後、淀んだ空気の中でも咳き込みながら絵を描いていた爺ちゃんを思わず家へ招き入れた事により、リンダさんはジミー爺ちゃんの摩訶不思議な人生に否応もなく巻き込まれる事となる。幼少期に両親と広島に渡り日本の教育を受けたものの、海兵隊学校へ行きたくない為にアメリカへ戻り、そこで第2次世界大戦勃発。日系人強制収容所生活を余儀なくされる。戦後、漸く自由の身になった後にNYへ向かう。長年料理人をしながら絵を描き続けたものの、最後の雇い主が亡くなった事で路上生活者となる。日本と米国、2つの国の歴史の闇と法の狭間に落ちてしまったジミー爺ちゃんの半生が解き明かされてゆく。荒れ狂う激しいタッチで原爆ドームを描くかと思えば、優しいほのぼのタッチの猫や柿を描き、道行く人を時に惹きつけていた晩年の日々。リンダ監督や福祉事務所の尽力により、市民権回復が確認されてケア付アパートに住めるようになり、数年前に天に召されるまで愛猫ミコと暮らしていた、というドキュメンタリー作品。そこに至るまでの彼の生活の変化や日本人にも知られていない歴史的な事だけでなく、長年閉ざしていた心の扉が徐々に開かれてゆくにつれ、爺ちゃんの性格や表情、画風までが穏やかに変わっていく様が映し出されている。人間とはいくつになってもこんなにも変われるのだなと強い感銘を受けた。エンドロール時の画面では、撮影中に偶然親戚と判明した日系3世である詩人ジャニス・ミリキタニさんと「ミリキタニ・パワー!」と叫びながらピースサイン。中々この映画を観られるチャンスは無いのだが、東京でも年に2回は開催されるジミー・ミリキタニ絵画展には、以来足を運ぶ事にしている。ビバ、ミリキタニ・パワー!