美しい世界観と音楽が織りなす、「蟲」と共存する世界を描いた怪異幻想譚
植物でもなく、動物でもない。命そのものが形となった「蟲」。それは時としてヒトに影響を及ぼすのだ。人の中には、蟲が見えるものと見えないものもいる。その蟲の影響により困っている人々を救うのは医者ではなく、蟲師とよばれる数少ない存在。その一人が主人公の、隻眼で緑色の目をした「ギンコ」である。ギンコは蟲を呼び集めてしまう体質なため、一つところに長居できず、蟲師として旅をしている。彼もまた蟲が見える人間だ。蟲による影響や療法を心得てはいるが、ギンコは「蟲の影響からの対処法は先達が長い間時間をかけて編み出したもので、わかっていないことがほとんど」という。舞台は作者の漆原友紀氏によれば、「鎖国し続けた日本」や「江戸と明治の間にある架空の時代」と設定されており、事実ギンコは洋装(ポロシャツにスウェットやコート)ではあるが、登場するほとんどの村人は和装である。幼少期のギンコの幼名は「ヨキ」。崖崩れにより母親を亡くした。一人生き残ったヨキは、のちのギンコと同じ隻眼…緑色の目をした蟲師である「ヌイ」と出会う。ヌイのもとでしばらくの間を過ごし、蟲師としての考え方を学ぶが、ヌイの片目を失くした理由に迫るなかで、彼女が追っていた常闇に潜む蟲、「銀蟲(ギンコ)」の闇に飲まれそうになるところを、ヌイがヨキの左目を犠牲にすることにより救い出す。それ以前の記憶を失い、自分の名前も忘れたヨキは、以降自身のことを「ギンコ」と名乗るようになった。美麗かつ、音楽ともマッチした幻想的な雰囲気と、それでいて日本にかつてはあったような和装の村人たちが織りなす世界観は、この作品の特徴だ。数々の蟲が登場するが、どれもほとんど1話完結であり、見ていて飽きることがない。また、原作の漫画の装丁は非常に丁寧に作られており手触りも良く、漫画としてコレクションするのもいいだろう。