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裁きを受けた時代の犠牲者
『戦場のメリークリスマス』でビートたけしが演じる『ハラ』は、戦時中に「正義」とされていたことに追従していた人だった。
時代の価値観がハラを生み、そしてハラは、戦犯となり裁かれる。
ハラは、加害者ではなく犠牲者だった。
一度この映画を最後まで見てから、もう一度頭から見ると、最初は極悪人に見えた『ハラ』が、ただの「かわいい人」に見えてくるのである。
人間は、一生懸命葛藤を抱えながら生きている。
性善説で見るか性悪説で見るかでまた変わってくるのだが、被害者側からすれば許せないことはあるにしても、俯瞰して見れば、どんな罪人も最終的には許されていいのかもしれないと、この映画を見て思う。
美空ひばりの『愛燦燦』の歌詞に、「人は可愛い可愛いものですね」とあるが、戦場のメリークリスマスでは悲しい戦争のシーンや体罰のようなシーンがあるが、それが時代の正義だったのだから仕方がない。
作家の永井荷風は、日本が戦争に負けることを知っていた。
フランスに留学していたためである。
それで、言語統制に引っかかったり引っかからなかったりしながら、遊郭などで遊んで暮らしていた。
ハラのような人間と永井荷風のような人間のどちらが聡明でどちらが真面目だったか、とこの映画を見て色々考えるきっかけとなった。