「時間」と「映画」
『TENET』の監督クリストファー・ノーランは、商業デビュー作『メメント』の頃から一貫して「時間」という主題を描いてきました。『メメント』では時間が10分ごとに遡り、『インターステラー』では惑星ごとに時間の流れ方が異なり、『ダンケルク』では異なる時間軸の物語を引き延ばした時間軸の中で同時並行的に描いてみせました。そして今作『TENET』では「時間の逆行」をテーマに、「前進する時間」と「逆行する時間」を同時に存在させるという前代未聞の演出をしてみせました。ジャン・コクトー『オルフェ』、タルコフスキーの諸作品でも描かれてきた「時間の逆再生」は、通常一度再生されたら巻き戻らないことが前提とされている「映画」という表現形態にとって、非常に本質的なテーマだといえると思います。また、ノーランはこれまでのフィルモグラフィーの中で、クライマックスで度々二つの舞台をカットバックを使って同時に語りエモーションを高めるという演出を使ってきました。今作でもこの手法が効果的に使われています。ここで重要なのは、このカットバックで示される二つの舞台の時間軸が微妙にズレており、ここでもまた「時間」という主題が表れていることです。この手法はグリフィスが『国民の創生』の中で使っており、非常に映画的な手法であると言えます。ノーランの「時間」の主題の追求の最新版である『TENET』、要チェックです!