『ストップ・メイキング・センス』(Stop Making Sense)とは、1984年に公開されたアメリカのコンサート映画。1980年代の音楽シーンに変革をもたらした伝説のロックバンド「トーキング・ヘッズ」の圧倒的なライブパフォーマンスを記録したドキュメンタリー作品である。後に『羊たちの沈黙』でアカデミー監督賞を受賞するジョナサン・デミが監督を務め、『ブレードランナー』などで知られるジョーダン・クローネンウェスが撮影を担当した。
本作は、バンドが5枚目のスタジオアルバム『スピーキング・イン・タングズ』のプロモーションツアーを行っていた1983年12月、ハリウッドのパンテージズ劇場での4夜にわたるステージを収録。120万ドルの予算をバンド自身が調達した自主制作映画でありながら、初期のデジタルオーディオ技術を先駆的に導入した極めて質の高い音響とエキサイティングな演出により、多くの批評家から「史上最高のコンサート映画の1つ」と絶賛された。その歴史的価値が認められ、2021年にはアメリカ国立フィルム登録簿に保存される作品として選出されたほか、2023年9月にはA24の配給により、メンバーのジェリー・ハリスン自らがサウンド監修を手掛けた4Kレストア版が劇場公開され再び大きな話題を呼んだ。
映画の幕開けは、フロントマンのデヴィッド・バーンがポータブルカセットプレーヤーとアコースティックギターだけを携えて、何もない無機質なステージに一人で登場するシーンから始まる。彼がテープを再生し、ローランドTR-808ドラムマシンのリズムに乗せて初期の代表曲「サイコ・キラー」を歌い始めると、曲が進むごとにティナ・ウェイマス(ベース)、クリス・フランツ(ドラム)、ジェリー・ハリソン(キーボード/ギター)ら中心メンバーが次々とステージに合流。さらにリン・メイブリーやエドナ・ホルトといった実力派のバックコーラスやサポートミュージシャンが加わるのに合わせて、演奏機材やセットがリアルタイムで運び込まれ、ステージが徐々に構築されていくミニマルかつドラマチックな演出が施されている。全員が揃ったステージでは、当時の最新ヒット曲「バーニング・ダウン・ザ・ハウス」や、バーンのソロ活動での楽曲が躍動感あふれるパフォーマンスとともに演奏される。中盤には、バーンの衣装替えの合間を縫って、ウェイマスとフランツによるサイドプロジェクト「トム・トム・クラブ」が名曲「天才愛のコトバ(Genius of Love)」を披露。その後、ステージに戻ったバーンは、自身のアイコンともなる風変わりで巨大な「ビッグスーツ」を身にまとい、エキセントリックなダンスとともに「ガールフレンド・イズ・ベター」を熱唱する。一般的なコンサート映画とは異なり、終盤の「クロスアイド・アンド・ペインレス」に至るまで意図的に観客の姿をほとんど映し出さず、ステージ上の純粋なエネルギーと芸術性の高さを際立たせた傑作である。