優しく移ろう恋模様に、心暖まる
主人公は勿論のこと、恋敵まで思わず背中を押したくなるようなキャラクター像と、繊細な絵によってなぞられる、優しく移ろう恋模様に胸がジンワリと暖まる。
母親を幼い頃に亡くし、借金を抱え出稼ぎに行く父親を支える、女子高校生のふみ。そんなふみが家政婦として仕える時代小説家の暁。複雑な家庭環境ながらも親の愛情を一身に受けて育った二人が、不器用に、優しく痛みに寄り添い合い、一歩ずつ、時には立ち止まりながらお互いを分かろうとする姿に心を揺さぶられる。
二人は人に頼らずまず一人でやろうとする。孤独を味わったことがあるからこそ、人一倍愛情深い。小さな発見とともに縮まった一歩を大切にしながら、だんだんと惹かれ合う心理描写が丁寧かつ繊細。二人だけの世界ではなく、あくまでも周りを巻き込みながら織りなす日常を愛おしく感じた。
甘えることを我慢してしまうしっかり者のふみが勇気を出して素直に甘えるシーンから、等身大の女子高校生らしさや、十歳以上歳の差がうかがえてそれがまた良かった。お気に入りのシーンを、時々読み返しに行きたくなるような作品。エピローグの「私はあなたの生きた証」「あなたはわたしが愛した証」というフレーズにこの作品”らしさ”が出ている。読了後、この宇宙のどこか自分にとってたった一人の存在を、願わずにはいられない。