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人が生きるとは!?考えるための参考書
主人公トルフィンの人生を通して、人が生きるとは?と問う幸村誠先生の傑作。トルフィンが生まれ育ったのは不毛な大地のアイスランド。豊かではないけれど、集落で助け合い、両親と姉と平和に暮らしていた。傭兵集団ヨーム戦士団のフローキがトルフィンの父トールズを訪ねてきたことから大きく人生が変わっていく…。父を失い、憎悪にかられたトルフィンは父の命を奪ったノルウェーのヴァイキング、アシェラッド一味と行動を共にしながら復讐を果たすため旅をする。ノルウェーとイングランド国家間の争いがおこる中、戦争にヴァイキングと共に加わり、平和に暮らす村の人々を傷つけ奪う行為に加担していく。領土をめぐって戦争を起こす国、戦うこと、その強さこそが最上の美徳と考えるノルウェーの男たち。略奪と殺戮が吹きあれ、それに翻弄される普通の暮らしを営んでいる人々。何も抵抗できない女性、子ども。そういったそれぞれの視点からの描写も見事に表現されている。父トールズの残した言葉「お前の敵は誰だ?お前に敵などいない。傷つけていいものなど一人もいないのだ」という現代にも通じる心に刺さるセリフがでてくるのもこの作品の大きな魅力。「強さ」とは「豊かさ」とは?を自分の胸に問いかける前世代に読んでほしい一冊。