人は、冷たくてだけどあったかいんだ
主人公の桐山零が抱える孤独。どこにいても誰といても、どこか独りぼっちな気持ち。その感覚は自分の中にも確かにあり、だからこそこの作品に入り込みやすかったんだと思う。
零は幼い頃に両親を亡くし、将棋好きの父親と親交の深かったプロ棋士の家に引き取られるという数奇な運命の持ち主だ。預かってくれた新しい父にも家族が居て、彼の2人の子供も同じように将棋をしていた。だが零は圧倒的に成長し、新しい父は、本来の子供たちより零を目にかけるようになる。そんな中、徐々に他の子ども達から批判の眼差しを受けるようになり、彼らの母親からも疎まれるようになった。零は家に居心地の悪さを感じていた。しかし将棋の方は順調で中学生でプロになり、人生を捧げることを決意し、高校生になると同時に一人立ちをする。
そのあと彼は、多くの素晴らしい人々と出会う。
そして将棋を通じて、また一人の高校生として生きる中で出会った人達とのつながりがすごくいいのだ。
将棋会館で一緒にプロとして切磋琢磨する二階堂や先輩、そして師匠となる島田棋士との出会い。
さらに零の住む町の隣町にある和菓子屋の川本家との出会い。高校で孤立してる零を気にかけてくれる林田先生。
彼らはあたたかく、そして嘘のないやさしさのある人々だ。そんなぬくもりが、零の心にゆっくりと、確かに沁みこんでいく。
この世の中は冷たくて、だけどあったかいんだ。そんなことが感じられるこの作品が、私は大好きだ。