汚れた血 / Mauvais sang

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汚れた血 / Mauvais sang
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映画「汚れた血」を観て、アンナと共に疾走する。

映画「汚れた血」は、フランスの伝説的な映画監督であるレオス・カラックスが、自身を投影したアレックスというキャラクターを主人公に描いたアレックス三部作の第二作目である。

物語のあらすじを記していく。親元を離れて一人暮らす青年アレックス(ドニ・ラヴァン)は、自分のことを愛してくれる恋人リーズ(ジュリー・デルピー)の存在がありながら、孤独と虚無感を抱えて生きている。ある日、アレックスの父親が電車に飛び込み自殺してしまう。しかし、実はアレックスの父親は借金が払えなかったために、自殺に見せかけ借金元であるアメリカ女に殺されており、アレックスの父親の犯罪仲間であるマルク(ミシェル・ピッコリ)がその借金を背負わされるはめになる。マルクは借金の返済のために、パリで蔓延していた愛の無いセックスで感染する奇病STBOの血清を盗み、売りさばいたお金で借金を返済する計画を立て、父親譲りの才能を持ったアレックスをこの犯罪計画に加担させようとする。最初は拒むアレックスだったが、人生を再起するために計画に乗る決断をし、恋人リーズを捨てマルクのアジトに向かうが、そこでマルクの恋人であるアンナ(ジュリエット・ビノシュ)に運命的な愛を感じてしまう。アレックスは、マルクのことを心底愛するアンナに苛立ちを感じつつも、二人は次第に心を通わせていく。そして、ついに犯罪決行の日が訪れる。アレックスは計画どおりSTBOの血清を開発した会社に侵入し、無事に血清を盗みだすが、計画を嗅ぎ付け横取りしようと目論んだアメリカ女の部下に銃撃されてしまう。機転を利かせ血清のダミーを盗ませたアレックスは、計画が成功して浮かれる仲間と合流して海外へ逃亡するため向かった空港で、銃撃による負傷により息をひきとる。

こうしてあらすじを書いたが、映画の冒頭からラストシーンまで、あらすじなどどうでもよくなるほど圧倒的な感性の鋭さで作られた映画であり、映像の美しさ、音楽のチョイスの絶妙さが素晴らしい。マルクのアジトでのアレックスとアンナの交流の場面が不自然に長く、物語のあらすじの流れを明らかに停滞させていると思うのだが、手が届きそうで届かないアンナと健気に愛を伝えるアレックスのやり取りがとても愛おしく全く退屈させない。どのセリフもオシャレで印象深いのだが、特にアレックスがアンナに問いかける「信じる?疾走する愛を」というセリフは何度見てもため息がでるほどカッコいい。出演する役者も素晴らしく、中でもアンナを演じたジュリエット・ビノシュの美しさと魅力が際立っている。先に述べたアレックスのセリフである「疾走する愛」が映画のテーマになっていると思うのだが、アンナが初めて映画に登場したところから、それまで陰鬱で無感情だったアレックスの心が静かに疾走し始めるのが見て取れる。陰鬱な気持ちで映画を鑑賞しているこちらも心が沸き立ち、心が走り始めるのを感じる。

「疾走する愛」を象徴する名シーンが二つある。何気なくラジオから流れたデビット・ボウイの「モダン・ラブ」を聴き、アレックスが夜の街に飛び出し疾走するシーンとラストシーンの空港でアンナが死んだアレックスの血を顔に塗り付け、空港の滑走路を疾走するシーン。基本的に静かに進行する物語の中でアレックスとアンナの愛が加速していくのだが、それがこの二つのシーンでは二人の想いが爆発するように加速度を増しており心を打たれる。
見ていて青春時代を思い出し、身につまされ苦しくなることのある映画だと思う。青春は疾走感を伴い思い出されるものであり、ラストシーンでのアンナの疾走は、青春時代に戻ってアンナと共に疾走している感覚を覚えてしまう。