めくるめく落語世界に一席、お付き合い下さい
昭和も終わりにさしかかったとある刑務所で行われた落語慰問会。そこで、八代目・有楽亭八雲(CV:石田彰)の落語「死神」に心奪われた男がいた。満期で出所したこの男、与太郎(CV:関智一)が向かったのは一目惚れした八雲のもとだった。「もう、あんたの弟子になるしかねぇんだ!」何の因果か与太郎に出会ってしまった八雲は弟子入りを承諾する。しかし、八雲はなかなか芸を教えようとはしなかった。何やら訳ありな八雲の過去を遡っていくことで物語は進んでいく。一緒に落語の生き残る道を見つける、と約束したかつての兄弟弟子である助六(CV:山寺宏一)との出会いから全てははじまった。
本作は雲田はるこ氏の漫画『昭和元禄落語心中』をアニメ化したものである。落語と聞くと普段あまり触れることのないエンターテイメントなのではないだろうか。独特な江戸っ子の喋り方、噺のネタも現代を生きる私たちには少し遠い。しかし、この作品に映し出されるのは噺家たちの、もとい八雲の生きた人生である。落語家として切磋琢磨する助六に出会い、恋をしていく中で得ていく幸せや、やるせなさ、切なさ、落語への諦めと希望。そして、その経験した全てが時節、作中で軽快な三味線の音にのって落語として滲み出てくる。
また、本職の噺家さん顔負けの声優陣の落語もこのアニメでしか見られない。特に、石田彰さんの演じる八雲の声色は10代から70代まで幅広く、加えて習いたての下手な落語から熟練の落語まで細かく演じ分けられている。山寺宏一さん演じる助六との落語の比較も面白い。八雲は実家が芸者の家であったことや生真面目であまり笑わないことからも、その所作の美しさが際立つ廓話や艶笑話が得意で、助六は明るく大雑把な性格から観る人を自然と笑わせる落語が得意である。そんな落語の違いも、本作が噺家の人生に焦点を置いているからこそ、キャラクターを存分に知った上で見ることができるからである。
ぜひ、ここでしか観ることのできない個性豊かな落語を、八雲の落語家としての人生とともに堪能してほしい。