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人種問題を巧妙に描いた技巧派サスペンスホラー
新たなホラー作品の境地を切り拓いた『ゲット・アウト』がアカデミー賞の脚本賞を受賞した、アメリカ人監督ジョーダン・ピールの2019年のホラー作品。本作もピール自身が脚本まで手掛けている。
『アス』は夏休みを過ごすため幼少期を過ごしたカリフォルニア州サンタクルーズの家を訪れた主人公アデレードの一家が、その街で自分たちとそっくりな謎の存在と出会う中での恐怖を描いたサスペンス・ホラー作品である。謎のそっくり集団「わたしたち/us」の出現とアデレードが忘れていた自身の過去のトラウマが渦を巻くように絡み合い、物語は単純なホラー作品を超えて展開されていく。主人公アデレートを演じるのは『それでも夜は開ける』でアカデミー助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴだ。
本作は前作『ゲット・アウト』同様に、あえて黒人を物語の中心に据えて描かれている。人種問題にはほぼ触れられずに物語は語られていくが、物語を追うごとになぜ主人公一家に黒人という設定が必要であったのか、黒人が社会の中でどのような立場で見られている存在なのかに合点がいくようになり、『アス』という映画内のサスペンスと現代社会の人種問題とが巧妙に対比され語られていることに気がつく。本作品は現代社会のメタファーのような理知的なホラー作品だ。
映画史の中でホラーというジャンルは、純粋なスリルを味わうための娯楽ではなく、魔女やフリークスと呼ばれ虐げられてきた人々に焦点を当てる社会的な機能としても役割を果たしてきた。その重要性を踏襲して作られた『アス』は、娯楽映画として純粋なスリルとサスペンスを楽しめながらも、鑑賞者が社会を考えていくきっかけを与える良作である。