尾崎豊のデビューライブと音楽性について。
二十歳までに出した3枚のアルバム『十七歳の地図』『回帰線』『壊れた扉から』を聴けば、尾崎豊の音楽性について特別語る必要はなくなると言っても過言ではないと思う。
彼の音楽は18歳のデビューライブの段階ですでに完成されていた。新宿ルイードのライブ映像を何度も観た。楽屋でソワソワしながらスタッフに『あと何分ですか?』とくったくのない笑顔で聞いている尾崎豊はとても感じのいい好青年だった。まるでアイドルのような甘いマスクをしていた。額を汗でビッショリになりながら鏡に向かってファイティングポーズを取る尾崎。試合前のボクサーさながらにシャドウボクシングを繰り返す。そして、ライブが始まった。
『街の風景』『ILOVEYOU』『15の夜』『十七歳の地図』『シェリー』『僕が僕であるために』『ダンスホール』を歌う。ほとんどベスト盤に近い内容だった。曲によって尾崎の表情は豹変した。一番印象的だったのは『15の夜』を歌う前のMC。ごく当たり前のことのように中学時代にみんなで家出をしたエピソードを話す。汚い大人には絶対になりたくない。偽善的な恋愛など受けつけない。尾崎豊は全く楽しんでいない。歌う姿は苦しそうに見える。そんなの本当の音楽じゃない。そういう人々も多くいるだろう。だけど、一番の問題はそうじゃなくて、尾崎の歌を聴いて共感を抱いた人間が自分も含めあまりにも多かったことなのだ。