原作の短編小説を構成で昇華した名作
原作の小説は一人一人主人公が異なる(厳密には偽名で登場し正確な名前が明かされないので同一人物がいるかわからない)短編小説で、戦前を生きたスパイの一つの仕事ぶりが描かれているだけで、1話1話の時間軸もバラバラである。
しかしアニメの方は1、2話しかけてその一人の登場人物の目線でスパイの仕事っぷりが描かれた短編を描いて行くのだが、全12話を1話から順に観て行くと『スパイとしての生と死』をテーマに掲げていたとわかるようになっている。
1、2話でD機関が掲げるスパイの定義、3話でスパイとなった人間の化け物と言われるほどの能力と化け物の信念、4、5話でそのプロフェッショナルな技術力、6話でこれまでに少しずつ見えてきた、彼らがD機関でスパイであり続けられる信念と理由が明らかになる。6話まででスパイとは何か、スパイとしての生が見えてくる。
しかし7話で初めてスパイの人生からの離脱者が描かれる。命令を機械のようにこなしている彼らが一人の人生のある人間であると実感することになる。8、9話ではまた揺らがない強固な信念が敵対する組織と対比されて改めて描かれる。10話でその集大成が。そして初めて11話でスパイとしての人生の死が描かれる。ここまで化け物たちを描いてきたが最終話は化け物になりきれなかった人間の話で幕を閉じる。
一つ一つ単独で楽しむ作品を、生と死に焦点を当て、スパイの人生を複数の主人公目線で描き切った改作であり快作だ。