昭和元禄落語心中 / Descending Stories: Showa Genroku Rakugo Shinju

『昭和元禄落語心中』とは、2010年零号から2016年32号まで『ITAN』(講談社)で連載された、雲田はるこによる人間ドラマ漫画である。コミックスは全10巻刊行され、累計発行部数は200万部を超えた。
物語は細やかな表現を持ち味とする孤独で孤高の落語家有楽亭八雲(ゆうらくていやくも)と対照的な立場や才能を持つ有楽亭与太郎(ゆうらくていよたろう)が、戦前からバブル以降にかけて芸を追求していく姿が落語界の流れと共に描かれている。
2013年には「文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門で優秀賞、2014年に「第38回講談社漫画賞」に一般部門を受賞した。さらに2017年「落語を巡る愛憎劇に、高座の巧みな描写を織り交ぜた清新な表現」に対して、「第21回手塚治虫文化賞」の新生賞を受賞した。
テレビアニメは2016年1月から3月まで第1期、2017年1月から3月まで第2期が放送された。このアニメでオープニング曲を椎名林檎と林原めぐみが担当し話題を呼んだ。また2018年10月から12月まで実写ドラマがNHKで放送され、有楽亭八雲役を岡田将生、有楽亭与太郎役を竜星涼が演じた。

bc201のレビュー・評価・感想

昭和元禄落語心中 / Descending Stories: Showa Genroku Rakugo Shinju
9

「どうしようもない自分でも、生きてていいかも」と思える漫画

落語を取り巻く人々のままならない人生を描く、哀しくて切なくて、でも優しい話です。
舞台は戦中から戦後の昭和。当代随一の落語家である有楽亭八雲(八代目)と、その弟子・与太郎が主人公です。
とにかくキャラクターがいい。つらい話でも、登場人物の粋な江戸言葉の応酬、しぐさ、表情の豊かさがあいまって、暗くなりすぎない絶妙なバランスを保っています。どのキャラも、いいところとダメなところがあって、結局みんな愛さずにはおれない。まさに落語の登場人物のようです。
「与太郎放浪編」と「八雲と助六編」の二つの時間軸で話が進むなかで、八雲のやりきれない過去や、与太郎の不器用でまっすぐな奮闘ぶりが描かれます。複雑で割り切れない感情を抱えて、優しさゆえに苦しみ、苦しませながら生きているというところは共通していて、やりきれない気持ちになるところもあります。でも、人間とはそもそもそういうもので、そういうやっかいで面倒なところも全部まるっと飲み込んで、それでも生きていくんだ、という明るさもあって、どこか救われる感じがします。
与太郎が最後の方に言う、「生きてりゃあどうしても言えねえ事なんざいくらでも出てくらぁ。しょうがねえなあ人間てのは。」という言葉が、この漫画のすべてのような気がします。
10巻完結という手を出しやすい長さもちょうどいい。おすすめです。