「どうしようもない自分でも、生きてていいかも」と思える漫画
落語を取り巻く人々のままならない人生を描く、哀しくて切なくて、でも優しい話です。
舞台は戦中から戦後の昭和。当代随一の落語家である有楽亭八雲(八代目)と、その弟子・与太郎が主人公です。
とにかくキャラクターがいい。つらい話でも、登場人物の粋な江戸言葉の応酬、しぐさ、表情の豊かさがあいまって、暗くなりすぎない絶妙なバランスを保っています。どのキャラも、いいところとダメなところがあって、結局みんな愛さずにはおれない。まさに落語の登場人物のようです。
「与太郎放浪編」と「八雲と助六編」の二つの時間軸で話が進むなかで、八雲のやりきれない過去や、与太郎の不器用でまっすぐな奮闘ぶりが描かれます。複雑で割り切れない感情を抱えて、優しさゆえに苦しみ、苦しませながら生きているというところは共通していて、やりきれない気持ちになるところもあります。でも、人間とはそもそもそういうもので、そういうやっかいで面倒なところも全部まるっと飲み込んで、それでも生きていくんだ、という明るさもあって、どこか救われる感じがします。
与太郎が最後の方に言う、「生きてりゃあどうしても言えねえ事なんざいくらでも出てくらぁ。しょうがねえなあ人間てのは。」という言葉が、この漫画のすべてのような気がします。
10巻完結という手を出しやすい長さもちょうどいい。おすすめです。