あひるの空 / Ahiru no Sora

あひるの空 / Ahiru no Sora

『あひるの空』とは、日本の漫画作品である。バスケットボールを題材とした少年漫画で、作者は日向武史。スポーツ漫画でもあり、ギャグ漫画でもある。『週刊少年マガジン』にて、2004年に連載がスタートした。
神奈川県川崎市を舞台となっているが、その理由は作者である日向の住居が近いから。資料を集めるのが楽だからという理由で、川崎市を舞台に選んだとのこと。
主人公の車谷空(くるまたにそら)は、九頭龍高校に入学後、高校最初の大会で優勝するという母親との誓いを実現するため、バスケットボール部への入部を志すが、不良たちが集まっており、練習ができる状態ではなかった。この作品では、部員同士のトラブルや、部員と指導者の問題、部員の退部など、実際の部活動でも頻繁に起きていることが多く描かれている。また、部員の学校生活や恋愛、家庭事情など様々なテーマを楽しめるのが特徴である。
2019年にはテレビアニメ化されるなど、人気の作品となっている。

SNW2017のレビュー・評価・感想

あひるの空 / Ahiru no Sora
9

成長と努力の軌跡、そして挫折の物語

週間少年マガジンで連載中のバスケ漫画・あひるの空。
学校の不良と共に仲間を増やし努力を積み重ねる、王道青春スポーツ漫画。

主人公・車谷空は高校進学を機に、母の入院する病院のある神奈川県川崎市の高校へと進学する。インターハイに出場したら会いに行くと母へ宣言するが、部は校内で悪名高い双子によって不良のたまり場となっていた。平均よりも身長の低い空は不良たちに「おまえには無理だ」と馬鹿にされる。それでもバスケットボールをした空は「バスケで勝負しましょう」と持ち掛け、5対1の勝負を制す。悪名高い双子の弟・花園百春は空のシューターとしてのセンスと類まれなる努力を前に魅了され、バスケットボールの経験を思い出し、空と二人で部活を始める。

不良やスポーツのセンス、努力というよくある設定の王道漫画だが、あひるの空は決して努力が報われ夢が叶う物語ではない。青春の中にある努力と成長、そして挫折を描いている。
仲間を集めて順調に力を身に付けある程度の試合ができるようなった空たちだったが、たった一回の敗北から煙草を吸おうとした百春たちのせいで部室が燃え、部は廃部となってしまう。それを同じくして、インターハイに行ったら会いに行くという空と母親との約束は、負けたその日に母親の病死という形で破れてしまう。
努力を重ねた先にある勝利や栄功を「あひるの空」は簡単には描かない。現実と物語としての絶妙なアンバランスで物語は展開される。
シューターとしての母親譲りのセンスを持つ空には、バスケットボール選手として重要な「身長」という最大の武器を持たない。空の唯一の羽であるシューターとしてのセンスも試合ではもがれる。

物語の中は空だけではなく、部員や教師たち、他校の生徒の成長と進歩が描かれている。それぞれが抱える苦悩を一つの試合ごとテーマとなり、苦悩する原因や逃げる過去へと立ち向かうきっかけとなる。
あひるの空には多くの登場人物の苦悩や成長、そして未来を描くが、全てが伏線として回収されることはない。読者に対して未来を想像させる。
また雑誌掲載と単行本で読み方が変わる。漫画は1話の終わりは多くが引きで終わる。特にスポーツ漫画にそういう構成が多い。あひるの空も例外ではないが、単行本ではそれらが極端に少ない。1話ごとの扉絵も極端に少なく、試合の流れをノンストップで読むことができる。
王道漫画にありがちな努力と成長だけではなく、努力の先にある挫折をテーマにした物語。
少年達は挫折のために未来へと歩いて行く。