あるゴーストのもとに持ち込まれた奇妙な依頼...その依頼をした彼女の名前は
藤田和日郎による漫画作品。劇場に棲みつく幽霊の男と、誰もがその名を知る「彼女」の強い想いが時を超えた深い絆として描かれていく物語。2024年には劇団四季により舞台化もされている。
とあるイギリスの劇場に棲みついた、通称「シアター・ゴースト」のグレイ。彼のもとに訪れたある女性の奇妙な依頼。強い意志を感じさせる瞳を持ちながらも、彼女は「自分にとりつき殺してくれ」とグレイに懇願する。最初は軽くいなしていたグレイだったが、なぜ彼女が死にたいと願うのか、話を聞くうちに彼女の揺らがない思いに惹きこまれ、彼女と行動を共にすることを決意する。そして、行動を共にするうえで交わした約束は「彼女が絶望したそのときに、自分が彼女を殺す」というもの。演劇が好きで劇場に棲みついた彼にとって、目の前に現れた彼女は「悲劇のヒロイン」であり、絶望した彼女を殺すことで、彼自らその「悲劇」の舞台の登場人物になろうという思惑からの申し出だった。すぐに彼女が絶望すると思い、交わした約束。実際、看護師として戦場に赴く彼女をどんどん過酷な状況が襲う。しかし、彼女は絶望するどころか、周囲の厳しい環境に抗い始め、グレイの計画は崩れ始める。と同時に、時間を共にする彼と彼女の間には「絆」のような感情が生まれ始める。誰もがその名を知る彼女の名前は「フローレンス・ナイチンゲール」といった。
「シアター・ゴースト」のグレイが幽霊になり、劇場に棲みついたのはなぜか。そして、「絆」のような感情が生まれ始めたグレイと彼女に忍び寄る怪しい影。その「怪しい影」はグレイと生前の因縁があった。グレイと彼女の間に生まれた「絆」の行く先は。
飄々とした態度の軽い語り口のグレイ。その軽い語り口からどこか憎めない雰囲気を醸し出し、読者は親しみを覚えるが、物語冒頭の彼は「ヒーロー」ではなかった。しかし、物語を読み終えたとき、読者は最初に抱いた彼の印象との違いに驚く。それは、「人を信じたくても信じられなかった」彼が彼女と出会ったことで再び「人を信じ、守りたいと思うようになった」からだ。誰も信じることができなかった彼が信頼を託した彼女の生き方とは。ぜひその姿、そして彼と彼女の圧倒的な想いの強さを、読者自身の目で確かめていただきたい。