夜明けのすべて

夜明けのすべて

『夜明けのすべて』とは、瀬尾まいこによる小説。2020年10月22日に、水鈴社より刊行された。
作品には作者自身も患ったパニック障害の経験が一部取り入れられており、「毎回楽しいと思って書いてきた小説であるが、この小説に関しては立ち止まりながらゆっくりと書き進めた」「そのぶん、ずっと見守りたいと思うかわいい作品になった」とコメントした。2024年2月には村松北斗と上白石萌音をキャストに迎えた実写映画が公開された。

徳野雄大のレビュー・評価・感想

夜明けのすべて
10

特別でもひとりぼっちでもない、それが”私”であると自分を許せるようになる映画

25年生きていて、様々な作品を映画館で見てきた私が、人生初めて映画館で3回見た作品です。
パニック障害を抱える男性と、PMSを患う女性を中心とした、町工場とその周辺の生活や人間模様を切り取ったような構成なのですが、本編通してメインとなる山場も、ハラハラやドキドキもなく、男性と女性が主人公なのに色恋沙汰を匂わせるようなことも一切ありません。特に恋愛展開はフラグすら全く立たないよう徹底的に描かれていません。
だからこそ、心的疾患の孤独さ、辛さ、それを支える周りの温かさが映画の隅々まで行き渡っており、非常に共感できる部分と人の温かさを感じられる作品となっています。
公開1年前に映画の情報が解禁されたとき、正直主演のひとりである松村北斗さん目当てで観に行くことを決めました。しかし、それにあたって購入した原作を読んでから印象や期待が一気に変わり、自分自身が心的疾患を患っていることもあり、「この作品を動いている人間で観てみたい」という気持ちが強くなりました。結果的に3回も映画館へ足を運ぶこととなったのです。
映画では原作以上に、山場も谷場もなく、なのに心の居心地がよく、より共感でき、鑑賞後の心の温かさも増しました。
気持ちが自分の意思とは関係なく乱高下してしまい、それによって体調面も不安定になり、周りの人に迷惑をかけてしまう罪悪感。でもそれは自分だけなのだろうか。自分だけが悲劇の人間なのだろうか。そんな自分でも周りに寄りかかって生きていけるのではないか。
心が不安定になりやすい今を生きる人たちにこそ、ぜひ観て、自分をもっと許して大切な気持ちになれるようになってほしいです。