歴史漫画でも松井優征節健在!『逃げ上手の若君』
2021年から年から連載が始まった松井優征の『逃げ上手の若君』。2024年7月からアニメも放送されています。
松井優征氏は『週刊少年ジャンプ』で『魔人探偵脳噛ネウロ』や『暗殺教室』を連載し、人気を博しました。どちらも他の漫画にはないトリッキーな設定やエキセントリックな演出が持ち味で、それらは本作でも健在です。
まず設定について。そもそも南北朝時代を題材にした漫画自体が珍しく、そして北条時行を主人公にしています。「誰?」というチョイスです。そしてこの主人公、「逃げること」を得意としています。本来であれば自分よりも強い相手に対しても勇敢に立ち向かっていくことがお決まりであろうジャンプ漫画の主人公が、逃げることを得意としているわけです。それも戦って死ぬことこそが名誉だとされた南北朝時代で。ここがこの漫画最大の個性だと思います。
ただやはりそこは少年漫画。話が進んでいくにつれて逃げるというより「自分の強みを活かして立ち向かっていく」というシーンが増えてきます。そこに少年漫画としての主人公の成長が感じられる描写はしっかりとなされています。
演出もトリッキーなものが随所にちりばめられています。主人公の宿敵となる足利尊氏が、まるで人ならざるもののように描かれているシーンが多々あります。印象的だったのは尊氏の目がアップになった時、眼球がいくつもあるというコマでした。
他にも馬の面を被った武将とか、常人の3倍くらいある武将とか出てくるんです。しかも彼らはオリジナルではなく実在した武将たち。特徴がわかりやすく書かれているというか、原作者の松井氏に遊ばれているというか。この辺りの演出が松井氏ならではだと思います。
そして史実に基づいた漫画ということで、結末が気になります。史実とは変えて足利尊氏を差し置いて主人公が天下を取ることはおそらくないと思います。それをしてしまうと北条時行を主人公に据える意味がないでしょう。だから天下はとれなくとも得意の逃げることにおいてどこかで生き延びるのか。
『ONE PIECE』でいうところの「ひとつなぎの大秘宝を見つけて海賊王になる」という結末ではない、これまた独特な結末が見られるのだろうと思うと、とてもワクワクしますね。
史実に基づいた歴史系の内容であっても松井優征氏の個性が発揮されているので、トリッキーな設定やエキセントリックな演出が好きな方にはぜひおすすめしたい漫画です。