PERFECT DAYS / パーフェクト・デイズ

saku_ok_rockのレビュー・評価・感想

PERFECT DAYS / パーフェクト・デイズ
10

何気ない日常生活がもてなす究極のヒューマンドラマ

東京、渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)は小さなアパートで静かに毎日を淡々と過ごしていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をして、同じように一生懸命に働いた。一見、その暮らしの様は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ暮らしの中にも毎日新しい発見や気づきがあるのだ。まさに、その平山の生きる姿は美しいものであった。そうした何気ない暮らしの間に思いがけない出来事が起きる。それが平山の過去を小さく揺らすことになる。

この作品の見どころは、平山の生き様の美しさである。
主人公である平山はトイレの清掃員として働くが、毎日同じことの繰り返しでも一生懸命に働く。そこに仕事に対しての情熱や、ひたむきさがスクリーン越しからひしひしと伝わってくる。何気ない暮らしの中に自分なりのルーティンを見つけ出し、小さな喜びや幸せを感じている様にとても心を打たれた。
仕事以外の休日は洗濯物をコインランドリーに出し、フィルムカメラを現像してもらい、家に帰った後そのフィルムを仕分ける作業をする。
平山は家にテレビはなく、今時なのにスマホも持たない。そんな彼が愛したものとは、朝は植物たちに水をやり、仕事場へ向かうときに車内で聴くカセットテープの音楽たちであったり、就寝前の読書。あとはカメラ。決して豪勢な暮らしとは言えないが、平山はやること一つひとつを丁寧にその物を感じながら生きているんだと思った。
そんな暮らしをこの映画を観ていて羨ましく、平山の生活に嫉妬してしまうほど魅力的に感じた。

やはり役所広司がすごい。
この映画で、役所広司は第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した。
彼は作中で、平山という男を見事に落とし込んで役として生きています。冒頭からおそらく20分くらいセリフがないのだが、役所広司の圧倒的な演技力によって全く飽きることがない。淡々とトイレの清掃をしているだけなのに、観ていて心がざわつく感じ、そしてセリフがなくともその芝居の所作であったり表情にさまざまなメッセージ性を感じさせられた。
今までの役所広司が積み上げてきた芝居のキャリアの集大成のようなものを感じる素晴らしい演技力に心が奪われる。

劇中に流れる音楽であったり、平山に取り巻く人間たちなど、作品の至る所に注目して欲しい作品だ。配役、キャスト、音楽、物語の構成、カット割などなど、あげたらキリがないが全てにおいてパーフェクト。
平山の些細な日常こそが平山自身にとっての完璧な日常、PERFECT DAYSなのだ。