文豪の名を冠するキャラクターが繰り広げる戦いを描いた物語「文豪ストレイドッグス」
「異能力」という特別な力を持った人間たちが生きる現代の横浜が、この物語の舞台だ。作品に登場するキャラクターは、すべてが私たちの生きている世界に実際にいた文豪たちの名を冠している。
主人公である「中島敦」が自分がいた孤児院から抜け出し、川でお腹を空かしているシーンから物語が始まる。これからの状況を考える主人公の目の前に、わざと川で溺れる男「太宰治」が登場する。見かねた敦が太宰を助け、物語は進んでいくのだが、この「中島敦」と「太宰治」の出会いが物語の大きな歯車を動かし、辛く苦しい出来事へと発展してしまうこともある。
この作品の魅力は「ダメな人こそ強くなれる」ところ、そして「国語のテストに強くなれる」という点だと考えている。
まず最初の「ダメな人こそ強くなれる」という点。
主人公の中島敦は圧倒的な劣等感を抱いて、物語最初のトラウマなどから自分は何もできない情けない人間だという感情をもってしまう。よくある少年漫画ではここから主人公が努力して強くなり、そのトラウマが克服され、さらに強くなるというような展開が多いと思う。しかしこの作品は一味違い、主人公の敦は努力し自分なりに強くなっていくだが、敵を含めた彼の周りの圧倒的な力の差を見せつけられることが多いのだ。敵との戦闘にたとえ勝ったとしても自分だけの力の勝利ではなかったり、自分の非力さを痛感するようなことが起こる。敵組織にいるライバル的存在には圧倒的戦闘センスの違いによって、雑魚扱いされることは少なくない。王道のヒーローというよりかは、地べたを這いながら辛いことも苦しいこともすべてを受け入れて強くなる。そんな成長の仕方を描いている作品だと感じる。
主人公だけではなく、ほとんどのキャラクターに辛く苦しい過去があり最初はみんなダメな人間だった、だからこそ全部を経験して強くなる。そんなダメな人だからこその強さを教えてもらえる。
次の魅力は「国語のテストに強くなる」というところ。
まずは登場人物が実際にいた文豪の名前で登場するところ。名前を覚えられるだけでなく、物語の異能力の名前も、太宰治は「人間失格」、芥川龍之介は「羅生門」というようにそれぞれ彼らの代表作の名前になっている。ほかにも学校の教科書に載っている作者も多く出ており、私自身もこの作品のおかげで学生時代にテストで点数をとれたことがある。
その他にも文学的な言い回しや近代小説で見かけるような旧字体の漢字なども登場するため、知らないうちに読めるようになっていた漢字がある、なんてこともあるだろう。
王道のストレートなヒーロー物語ではなく、たくさんの酸いも甘いも経験して強くなる、そんな人間味あふれた作品だと私は感じている。思えば、人間である文豪たちが生み出した物語から生まれたのだから、人間味があって当然なのかもしれない。