オッペンハイマー(映画)

オッペンハイマー(映画)

『オッペンハイマー』とは、「原爆の父」と呼ばれた物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた2023年公開の映画である。第二次世界大戦中にマンハッタン計画の監督として原爆の作成を主導する姿や、冷戦時の赤狩りに巻き込まれ、最終的に彼自身が失脚するに至るまでの様子が描かれている。IMAXカメラで撮影された高解析度の映像に、緊張感のある迫り来るようなサウンドが加わっており、天才科学者の頭脳と心を五感で感じることが出来る作品である。

hirohinamama1975のレビュー・評価・感想

オッペンハイマー(映画)
9

日本人にこそ観てほしい作品

日々当たり前に生活できていることに感謝。
『メメント』『ダークナイト』『インセプション』『TENET』を撮ってきた、クリストファー・ノーランらしい複雑な構成の映画。

3つの時間軸がバラバラに入り乱れているうえ、セリフ量と単語が膨大なのと各人物たちの関係性、歴史的背景を知っていた方がよりこの映画を理解できる。
しかも登場人物の会話がとても速いため、字幕を読んで考えている間にもう次の会話をしている。考える暇を与えない。

原爆ができていく過程は正直見ていて日本人としては苦しかった。
完成して、マンハッタン計画で初めて実験を行う。実験までのカウントダウンほどの緊張はなかった。カウントダウンの映像と同時に、その緊張を表すかのような音が、映画館の中で響き渡る。大きな爆発音と、実験に成功して喜ぶアメリカ人たち。正直、泣きそうになった。これが落とされたんだと。

マンハッタン計画のシーンは、ノーランからの「核の恐ろしさを改めて多くの人に知ってほしい」というメッセージにも見てとれた。
その後はオッペンハイマーの苦悩と、ルイス・ストローズの陰謀が長い時間かけて描かれてゆく。オッペンハイマーが実際に放った言葉、「我々は死なり、世界の破壊者なり」。この言葉が全てを表しているように思える。ナチスより先につくらなければならなかったのかもしれない。

しかしこれがどれだけ取り返しのつかないパンドラの箱だったのか、歴史を知る私たちにとっては、やはりなくなってほしいと思うばかり。
実際のオッペンハイマーが映画のように苦悩していたかはわからないが、アメリカという国でつくられた映画の中で、その時の出来事を少なくとも「過ち」として描いてくれていたように感じる。それがアメリカでヒットして第96回アカデミー賞で7部門受賞したことは、今世界で起きている戦争に対するメッセージとして届いてほしいと思う。