BLAME! / ブラム

umino_0711j8のレビュー・評価・感想

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BLAME! / ブラム
9

コマから重油と鉄さびの匂いが立ち昇る、本物のSF漫画

『BLAME!』は弐瓶勉(にへいつとむ)氏が執筆したSF漫画です。『月刊アフタヌーン』で1997年から2003年まで連載されていた漫画ですが、新装版として再発行されていますので、大きな書店なら単行本のコーナーに置いているかと思います。

この漫画の舞台はネット空間および機械群が暴走し、太陽系さえ呑みこむ金属質の構造体に覆われることになった未来です。
生き残った人々は暴走した機械群やその防御機構、人類を敵視する知的生命体・珪素生物の影でやっと命を繋いでいる状況です。主人公キリイはこの状況を終焉させることを目的として、ネット空間を正常化させられる特別な超古代の人種を見つけ出す旅を続けています。

『BLAME!』の連載当時はインターネット黎明期であったにも関わらず、仮想現実空間や電子世界への人格のコピーなど、より後世の作品で描かれるような題材が精緻に描写されています。それだけでも一読の価値がありますが、何より圧巻なのは長大な構造物、そして膨大な時間と空間の作画能力です。
完全な遠近感で拡がるのは重金属の平野、乱立する数十~数千キロメートル単位の建造物、そして光化学スモッグの雲に覆われた灰色の世界。荒廃したポストアポカリプス的世界観が好みの方なら、その真っ黒く描き込まれた紙面から重油や鉄イオンの匂いさえ感じるかもしれません。

戦闘シーンやキャラクター構成も一流です。ただ専門用語が多いことと、何より主人公が物語中盤以降ほとんど話さなくなるので(後半では十数ページ連続で一言も話さないのがザラです)、ストーリーの展開がわかりにくくなるのが唯一の欠点でしょうか。
ですがそれさえも無機質かつ重厚感のある荒廃した世界観を際立たせる要素になっているのが、この『BLAME!』のよいところです。読み応えのあるSF漫画をお探しの方に、強くおススメです。