「ヘソリンガスで幸せに」
今回は、書き手の私が、ガチでぞっとしたドラえもんのお話をご紹介しよう。
学校や野球の試合で怒られて嫌な思いをして、いつものようにドラえもんに泣きつくのび太。今回ドラえもんが出したひみつ道具はヘソリンスタンド。これはその名の通り、ガソリンスタンドに形が似ていて、給油ノズルそっくりな機械の先端をおへそに直に当ててガスを注入する。するとガスが効いている三十分間のなかでどんなに辛い思いや怪我をしても、ずっとご機嫌でいられるのだ。しかし三十分が経つと、蓄積していた痛みや悲しみをいっぺんに感じるようになる。それが嫌でのび太は再びガスを注入する。私はこのサイクルに見覚えを感じた、いったいどこで見たのだろうか、ああ、思い出した、学生時代にネットで見かけた違法薬物による中毒のサイクル図だ。
しかもジャイアンとスネ夫に機械を取られて、ガス注入一回十円と同級生や友達を相手に売人行為まで始めてしまった。
ガスのリピーターはあっという間に大勢出来て、親の財布を盗んでまでガスを欲しがる子供まで出てきてしまう。
この話は機械の中のガスがなくなったところへ、ドラえもんが痛みを大げさに感じるガスと中身を取り換えたことによって終了した。
痛みは体と心を守るための大切なサインなのに、それを消して快感に浸らせ、快感を失うのを拒絶させる、このサイクルを維持するためだけに人生を浪費することになる。こんな恐ろしい機械が作られて販売されるなんて、22世紀の人々の倫理観を疑う上に、これをのび太に出してやったドラえもんも、人間にとって痛みとは大切なものだとわかっていたはずなのに、痛みを消すことに依存する道具なんか出したら騒動になるだろうともう少し深く考えてほしかった。