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「わかってしまう」もどかしさ
佐藤健が主演を務める、直木賞作家・朝井リョウの小説が原作の映画『何者』。
この物語は、就活生である主人公・二宮拓人の視点から、彼を含めた6人の若者の姿を描く作品です。
拓人は、周囲の人間を、そこから一歩引いた状態で常に観察し、自身のSNS(いわゆる裏アカウント)にそれを投稿しているのですが、その内容は、どこか他人を見下したような、冷たいものでした。
自身の努力を頻繁にSNSにアップしないと気が済まない友人、就職活動をする人たちを小馬鹿にしながらも自身も広告会社に応募している男、掲示板で酷評されながら毎月質の低い舞台を発表している元演劇仲間…。
この作品の秀逸なところは、そんな拓人の辛辣な分析が、つい「わかってしまう」点です。
彼のように他人を馬鹿にしたような態度は、就職活動に限らず、さまざまな場面で自身を不利な状況に追い込んでしまいます。それを理解していても、拓人の毒舌に共感してしまう瞬間があるのです。
その瞬間は、ナイフで胸の内をえぐられたような、また、どこか自分を恥ずかしく思うような、なんとも複雑な気持ちになります。
『何者』は、就職活動を通して、人のあさましい心や、弱さをリアルに表現しつつ、それでも必死にもがいていく若者たちの心の複雑さを描いた物語なのです。