ある種タブーに踏み込んだ異色のファンタジー作品
剣と魔法の世界を舞台に、勇者が世界を救ういわゆる「ファンタジーもの」は数あれど、「ダンジョン飯」ほど異色なものもあまりないのではないでしょうか?
この作品に登場する冒険者は、別に人助けをするわけでも世界の平和を守るわけでもありません。ただ、個人的な目的のため地下ダンジョンの奥深くへと分け入り、魔物を倒し得たものを糧に生活をしているんです。
主人公たちもそんなしがない冒険者のひとり。ただほかのパーティと違うのは、倒した魔物を調理しておいしくいただいちゃってるんです。
オオカミやドラゴンなんかならまあ許容範囲。おそらく他の作品でもそういう描写もあるでしょうが、この作品雄秀逸なのは、一見食に適さないような魔物に関しても、ちゃんと「生き物」としての生態が存在し、こんな味がして、だからこんな料理にして食べられるんだ……という説明がとにかくユニーク。
たとえば、ミミックという宝箱に化ける魔物はこの世界ではヤドカリのような生き物で、塩ゆでにするとおいしいとか、実は宝箱にコインが詰まっているのは、ミミックを餌にするために寄ってきた「コイン虫」というコインに擬態した虫が正体だから──という感じ。
言ってることがめちゃくちゃなんだけど、なんか納得できてしまう説得力を持っているんです。とはいえ、この世界の冒険者でも、魔物を食べるという行為はゲテモノ扱いされているんですけどね(笑)。
周りの冒険者仲間からも眉をひそめられながらも、ダンジョンの奥地でもくもくと魔物を食べ続ける主人公一行ですが、それにはちゃんと理由があるんです。その理由が、物語の軸として働いているため、単純なキワモノではなく、ちゃんと骨太なファンタジー作品としてのバランスが取れているのもこの「ダンジョン飯」の魅力。設定のユニークさと、緻密さが、唯一無二の世界観を紡ぎだしているので、未読の人はぜひ手にしてみてください。