『鋼の錬金術師』
『鋼の錬金術師』は荒川弘氏による漫画で、『月刊少年ガンガン』で2001年8月号から2010年7月号まで連載されました。アニメや実写映画も作られており、息の長い人気作と言えるでしょう。錬金術を使うことができる世界が舞台で、主人公の兄弟2人、エドワードとアルフォンスは、人体練成という錬金術師最大の禁忌を犯し、エドワードは右手と左足を、アルフォンスは体そのものを失ってしまいます。彼等が失った体を取り戻そうと旅を続ける中で、国の重大な秘密を知り、いろいろな事情で集まった仲間たちと一緒に敵を倒すために戦うのです。
話の根底を支えるのは「一は全、全は一」という考え方。登場人物たちが容赦なく死んでいく作品も多い中、命の尊さ、そして命のつながりを改めて認識できる作品と言えるでしょう。何せ、主要な登場人物の一人、ロイ・マスタング大佐が部下たちに放つ言葉は「死ぬな」なのですから。
また、重要な役割を果たす「賢者の石」は、人間の魂から作られたものですが、エドやアルは魂だけの存在になってしまった賢者の石に対しても、人として扱おうとします。人の、そして命の尊厳を強く訴えかけていると言えます。もちろん、きれい事では済まされない、非情な論理で話が進むところもあり、そこの部分は、むしろストーリーのリアリティーさを増しています。最後は大団円とはなるのですが、決して手放しのハッピーエンドではないので、とても余韻のある作品です。