異能がなくても本物の愛は消えない
和風異世界ファンタジー。しかしファンタジーにとどまらず、それぞれの登場人物の心情を丁寧に追って物語は進んでいく。
異能の家系に生まれながら、その能力を受け継がず虐げられて育った斎森美世。親にも愛されず、誰にも必要とされなかった人生を歩んでいたが、物語を追っていくと気にかけてくれる使用人や幼馴染の愛も描かれている。
異母兄弟のかわりに美世は冷酷無慈悲と噂される久堂清霞に嫁ぐことになるが、実際は女性との付き合い方が分からない朴念仁系男子だった。清霞は母親との確執もあり、女性から誤解されやすい性格で、素直に言葉にできない昭和風の男性。しかし、言葉にこそ出ないが、表情に出やすく分かりやすいまっすぐな青年である。
美世は人との関わりが少なく、極端に偏った家庭で育ったので清霞の表情の豊かさを感じる心の余裕やヒダはなく、物事を悲観的に捉えてしまう。美世の幼いままで止まっている心を溶かしてくれたのは、気にかけてくれる婚約者清霞と、清霞を幼い時より育てており、食事を作りに来ているゆり江だった。
物語が進んでいくうちに、美世のたくましさや芯の強さが垣間見られるようになる。美世本来の魂の美しさが個性的な登場人物、出来事を通して上手に引き出されていく作品である。