ビリーに託した幸せ
母親はおらず、父親・兄は炭鉱ストライキ中でお金には苦しい。祖母は体調が芳しくない。そんな厳しい環境であっても、バレエが好きだと練習を続けるビリー。バレエを馬鹿にしていたけれど、息子のために炭鉱に戻る父。そして、同じようにストライキに参加していた父親が、炭鉱に戻ることを決意してしまうなど、複雑な状況に置かれてしまう兄。最終的に、労働に従事し、ビリーとの別れ際には“I miss you.”を伝えていた。綺麗ごとばかりではなく、人間の緻密な感情変化を描写したストーリーに心打たれる。
物語の主人公である11歳のビリーは、夢であったロイヤル・バレエ学校に入学できる。また、エンディングでは、自身の晴れ舞台に父親、兄を招待することができた。ビリーの親友マイケルは、時代背景を考えると、厳しい面も多いだろうに、ゲイである自分を確立し、恋人と連れ添って、ビリーの舞台を鑑賞していた。舞台にあがった姿を家族と親友に見せることができた。未来ある少年2人は夢をつかんだ。
一方の父親と兄はどうなったのだろうか。生活が困窮し、妻の形見であるピアノを壊して薪にするくらいの生活水準になっても、続けていた炭鉱ストライキ。兄は、ストライキが原因で、町の人ともめ、暴力沙汰になり、警察に捕まってしまう。妻の形見を壊し、自身の自由をかけてまで挑んでいたストライキだったが、父はビリーのために炭鉱労働を再開。兄は、父親に裏切られるような形でストを中断。さらに、ストライキは組合の譲歩で簡単に終わってしまう。彼らの行動は、全く意味を成さない結果となってしまうのだった。ビリーがロンドンに 向かった後、炭鉱地下に向かうエレベーターに乗る2人の顔は、お世辞にも幸せそうには見えない。彼らに未来はなかったのだろうか。
しかし、ビリーの晴れ舞台に父親と兄が駆け付けるシーン。普段は薄汚い炭鉱で働き、カジュアルな格好の二人が、ジャケット・コートといった正装で舞台に向かう。エスカレーターや鉄道などの最先端技術に驚く様子をみると、普段の二人の生活水準をなんとなく察してしまう。彼らは、人生の幸せや成功をビリーに託したのであろう。
「白鳥の湖」が流れて、ビリーが宙を舞った瞬間、 目が潤む父と感動で目を見開く兄の顔は幸せに包まれていた。