新感覚バディ冒険譚
この漫画の舞台は明治20年代。日露戦争の帰還兵・杉元佐一とアイヌ民族の少女・アシリパがひょんなことから出会い、アイヌの男たちがどこかに隠したと言われる金塊をめぐる事件に関わっていく、北海道冒険譚です。
この作品の見どころは「隅々まで濃いキャラで満たされた世界で起こる、ギャグとシリアスのジェットコースター」にあります。
主人公の杉元は「不死身の杉元」の異名を持つほど戦闘能力に優れ、相手を敵と認めれば容赦なく殺しにかかるような人間でありながら、虫が苦手で少女雑誌を愛読している。その相方のアイヌの少女アシリパは凛とした顔立ちでさまざまな変顔をこなし、杉元が携帯している味噌を「オソマ(うんこ)」と言って譲らない。
彼らの敵対勢力として描かれる陸軍第七師団の構成員は「戦争で前頭葉の一部が吹っ飛んでいて興奮すると変な汁が出る中尉」を筆頭に、「サーカスの少女団に少女の衣装を着て真顔で混ざる屈強な軍曹」「興奮すると早口の薩摩弁になってしまって何を言っているのかわからない少尉」「精子をものすごく飛ばせる上等兵」と濃いキャラが乱立。
一見するとぶつかり合って調和しないような濃いキャラたちが、しかしきちんと関係を成立させている。そこを上手く調和させているのが、激しい緩急で巻き起こるギャグとシリアスの相転移です。
味噌をうんこだと思っていたヒロイン・アシリパは勇気を出して口にしてから味噌を好むようになったものの、呼び方は「オソマ(うんこ)」のまま。どう見てもギャグのための設定かと思いきや、ある事件をきっかけに相棒の杉元と別れて行動する中で、「杉元のオソマがなくなってしまった」と呟く彼女のセリフには寂しさが滲み出る。
登場人物一人一人が持つ濃いキャラクター性がギャグにもシリアスにも転ぶことで、うまく調和を保っている。その転換のスピードに読む人は巻き込まれ、逃れることはできないでしょう。