「愛してる」や「好き」という歌詞がなくても、深い愛情を感じさせる1曲。『三文小説』
ラブソングといえば、現実の会話で言葉にするには少し気が引けてしまうような「愛してる」や「恋しい」などの歯の浮くような言葉が乱用されがちだが、
King Gnuの『三文小説』の歌詞には、その手の言葉は一切出てこない。
それでも愛する人と生涯を共にしたいという、深い愛情を想像させる作品だ。
『三文小説』という曲名の通り、この曲を聴くとまるで小説を1つ読み終えたかのような充実感に満たされる。
情報は多くないにも関わらず、曲中に出てくる登場人物の息遣いを感じるのだ。
登場人物といっても、出てくるのは主人公とその伴侶である「君」の2人だけ。
それなのに脳裏には、2人が送ってきた人生や、乗り越えてきた壁が浮かんでくる。
そしてボーカル井口の美しいハイトーンボイスと、クラシック音楽のような荘厳な曲調があいまって、聴く者の心をストレートに刺してくるのだ。
誰だって若い頃はわかりやすい愛情に魅力を感じてしまうし、恋人が「愛してる」「好きだ」と言ってくれないと不満や不安を感じてしまうものだ。
しかし夫婦2人が生涯を共にする道のりは、そんな甘っちょろいものではない。
『三文小説』は、上辺だけの重みのない愛の言葉よりも大切な、もっと深く静かな愛情がこの世にあることを改めて認識させてくれる1曲だ。