今までにないアクティブで共感しやすいポアロ
1974年のA・フィニー主演作品のリメイク版です。
今作では監督・主演のポアロをケネス・ブラナーが演じています。
有名なアガサ・クリスティーの原作で、豪華なオリエント急行を舞台に起こる殺人事件を名探偵ポアロが捜査する、というものです。
まずは、美しい映像に目を奪われます。
広大な雪山や雪崩、豪華な列車内の様子や調度品など「非日常」が伝わってきます。
出演陣も豪華スターが揃っており、見せ場は短くても印象的で「あの人誰だっけ」ということになりません。
殺人事件が起こって捜査を始めると、人間関係がこんがらがることが多いので、ひと目ですぐわかる俳優が演じていると分かりやすいです。
名探偵ポアロは、これまで何人かの俳優が演じていますが、今作のポアロは彼らよりも若々しさを感じます。
もちろん特徴的な口ひげや秩序を好むこと、美食家であることなどの「ポアロ像」は共通していますが、今までにないコミカルさや走るポアロなどが見られます。
ポアロの優れたひらめきにより事件を調べていくうちに判明したのは、「被害者が加害者になる」というどうしようもないやるせなさです。
ポアロは善と悪にくっきりと線引きをしています。しかし、この事件は今までのポアロにはない判断を下すことになるのです。
ブラナー演じるポアロは犯人を糾弾しながらも、悲しみや絶望に理解を示します。
このクライマックスでは、豪華な俳優陣の演技力が存分に発揮され、少ない言葉ながら観ているこちらまで苦しくなるほどでした。
決して後味のいいラストではありませんが、それこそが現実なのだと感じます。
仇を討っても爽やかにはなれない、けれどもこのまま絶望と苦しみを抱えては生きていけないという様子が全員から伝わってきます。
なんだかしょんぼりした感じのポアロが、最後にエジプトの事件に向かうところで終わりですが、再びの事件がポアロに生気を取り戻したかのように
「ネクタイが曲がっている」といつものポアロ節になっているのが救いです。
ストーリーは良く知られているので、ブラナー版ポアロを楽しめるかどうかが重要なカギのようです。
意外とチャーミングで、やっぱり変で、だけど頼りになる感じの新しいポアロをおすすめします。