たった10年の命、10年も残された命
この映画を一言で説明するならば、病気で余命10年の茉莉が中学校の同窓会で同級生の和人と再会し、恋をする話。
基本的に病気を扱う映画では、病気を持つ主人公は強く明るく、それと対照的に周りが悲しそうにしているという構図がよく見られる。
劇中で茉莉が家族に放つ「私達ってどっちが可哀想なんだろうね」という冷酷な一言にはとても考えさせられる。しかし、この映画の主人公茉莉は劇中で何度も何度も涙を流す。しかし、涙を流すものの「死にたくない」「生きたい」とは絶対に言葉にしない。
そんな茉莉が後半、初めて自分の親に「死にたくない」と思いを口にする場面では、私達観客も泣かずにはいられない。さらに恋人である和人に余命があることを知らせる場面では、「これ以上一緒にいると死ぬのが怖くなっちゃう」や「死ぬ準備をさせて」というような茉莉の言葉に対して、混乱中の和人は、ハグをしながら「嫌だ」と茉莉との別れを拒み続ける。
このような人間らしい各所に散りばめられた感情表現が一つの見どころであると私は感じた。映像面では、Radwimpsの劇伴にのせて四季折々を感じさせる綺麗でどこか懐かしく儚い映像が流れる場面が何度かあるのだが、その場面ではあまりの綺麗さに鳥肌が立ち、心が震える。
生きていることの素晴らしさが、痛いほど伝わってくる。最後に私が最も心に刺さった言葉を紹介して終わりたい。後半茉莉は和人に対して「余命10年なんて長いのか短いのか分からない。さっさと死なせてくれと思っていた。」というような内容のことを告げる。10年という人生がどれほどに長く短いのか。皆さんにはぜひ劇場に足を運んで確認してきていただきたい。