キュンとした胸の痛みを追体験できるVR的映画
別れた恋人、疎遠になった友人。彼ら彼女らを思い出すとき、最初にどの場面が出てくるでしょうか。出会いよりも、別れのシーンを最初に思い出す方が多いのではないでしょうか。それだけ別れはその人にとって強い印象を残すのだと思います。この作品は、タクシー運転手の女性が、ふとしたきっかけで、恋人との別れから出会いまでの6年間を、時を遡って思い出していきます。観客はカップルの「ちょっと思い出しただけ」を追体験できるのです。そのため観客は、良くある出会い別れのラブストーリーを観るよりも自分ごとのように感情移入してしまいます。
この映画では、思い出として出てくるシーンは全て「7月26日」です。彼を吹っ切るための合コンも、ケンカ別れしたのも、イチャイチャしていたのも、付き合う前の微妙な時期の描写も、彼の誕生日も、彼との出会いも、7月26日。6年間を遡っていくにあたって、同じ日付に固定することで、二人の関係や環境の変化がわかりやすく提示されます。
この映画はクリープハイプというロックバンドの「ナイト・オン・ザ・プラネット」という曲に触発されてつくられました。またこの楽曲自体は同名のジム・ジャームッシュ監督の映画に影響を受けてつくられています。カルチャーのリスペクト数珠つなぎで新たな作品が出来上がったことには驚きを覚えます。これらを鑑賞前にチェックしておくと、よりいっそう作品を楽しめるでしょう。