鏡

『鏡』は1975年に公開されたソ連映画。監督はアンドレイ・タルコフスキーで、彼の代表作。彼の自伝的要素の強い映画であり、それと同時にロシアの現代の歴史を独特の手法で描き出している。
本作は言語症の少年が回復訓練を受けているTV画面の情景から始まり、現在と過去の映像が往復する。
タルコフスキーは過去は記憶のなかに存在する現在であり、現在それ自身も、過去の記憶のイマージュの一つの複合であると考えており、「鏡」に映る像を通してうつろい行く記憶のなかの変わることのない何かの存在を証明している。

hachisyuのレビュー・評価・感想

7

アンドレイ・タルコフスキー監督の精神世界を覗く

この「鏡」と言うか作品はアンドレイ・タルコフスキー監督自身の精神的な世界観を映像で表現したかの様だ。僕たちは眠っている間に夢を見る。その夢の内容はというと、一貫した物語がある訳ではなく、いくつかのシーンの断片が寄せ集まってまとまりがあるようでないような、そんな不思議な印象の夢だったりする。この「鏡」と言うか作品も具体的な物語などはなく、監督の夢の中を覗き見ているような感覚に包まれる。その世界観が何とも静謐であり、芸術性が高く、いつまでも没入していたくなるような穏やかさをたたえた空間なのだ。先ず、自然を上手く使った描写が多い。草原を吹き抜ける風の音、木々を濡らす雨粒、草木が風によって擦れ奏でるメロディー、そのどれもが見ていてとても静かで心地がいい。タルコフスキー監督の作品は見ていると眠くなってしまう、と一部では言われてるらしいが、なるほどそれにも納得出来る。それはつまらないから眠気が襲って来るのではなく、心地よい眠気への誘いであるのだ。二度目の鑑賞の際は、睡眠前にこの「鏡」を小さなボリュームで流し、何となしにその静かな世界観を眺めながらまどろみ、心地よい眠りに誘われてみようと考えている。あわよくば鏡の様な夢を見れたらいいなと願う